「歩掛(ぶがかり)」という言葉は、建設業の積算や見積業務で頻繁に登場しますが、意味や使い方がよく分からない…という方も多いのではないでしょうか。「人工(にんく)」との違いや、「歩掛が悪い」という表現の意味に戸惑うこともあるかもしれません。
この記事では、歩掛の基本的な考え方と人工との違い、さらには計算方法や見積書への活用方法を初心者向けに分かりやすく解説します。
建築・電気・土木といった工種ごとの違いや、エクセルでの活用例まで、実務に役立つポイントを幅広くご紹介します。「なんとなく使っていたけれど、ちゃんと理解したい」という方に、基礎から応用までを押さえられる内容となっています。
記事のポイント
- 歩掛とは
- 歩掛と人工の違い
- 標準歩掛と実績歩掛
この記事を書いた人

事務員たなか(@tanaka_kodozimu)
建設業事務員のたなか(@tanaka_kodozimu)です。
元SEで安全書類作成をメインに、経理・総務・人事・IT土方なんでもやっています。
子ども二人の限界主婦。事務作業や子育てが少しでも楽になる情報を発信しています。
目次
歩掛りと人工の違いについて

- そもそも歩掛りとは?
- 「歩掛が悪い」ってどういうこと?
- 「人工」とは?歩掛との違いをわかりやすく解説
- 歩掛の計算方法と具体例|人工・労務費はこうやって求める
- 歩掛の種類とその使い分け|標準歩掛・実績歩掛とは?一覧はどこにある?
そもそも歩掛りとは?
建設業の積算作業において、材料費は「材料単価 × 数量」で比較的シンプルに算出できます。
しかし、労務費(人件費)については、作業内容の難易度、職人のスキル、施工条件、作業環境によって大きく変動するため、単純な作業時間や人数だけで正確に見積もるのは困難です。
たとえば、同じ2時間の作業でも、高度な技術が求められる作業と単純作業とでは、かかる費用は当然異なります。
また、同じ作業を行う場合でも、熟練の作業員と新人とでは作業スピードや精度に差が生じるため、単純な時間計算では正確な見積りができません。
こうした中で必要になるのが、「歩掛(ぶがかり)」という考え方です。
歩掛とは、ある作業を行うのに必要な手間(人員・時間・機械など)を数値化した基準のこと。
公共工事では、国や自治体が発行する「標準歩掛表」をもとに、積算基準が決められており、見積書の信頼性や価格の根拠として非常に重要な役割を果たしています。
民間工事においても、過去の工事実績や経験に基づいた歩掛を用いることで、現場に即した合理的な見積りが可能となります。
「歩掛が悪い」ってどういうこと?

積算や見積の場面で「歩掛が悪い」という表現を聞くことがありますが、これは作業の効率が悪い=必要な手間が多いという意味で使われています。
「この現場、歩掛悪くてさ~」
「歩掛が悪いから金額合わないな~」
といった会話を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
たとえば、同じ100m²の作業をするのに、A現場では10人工で済んだのに、B現場では15人工かかった――
このような場合、Bの現場は「歩掛が悪い(非効率)」と評価されます。
歩掛は、「1m²あたり何人工か」「機械を1台取り付けるのに何人工か」などで表されるため、数値が高くなるほど“人手・時間がかかる作業”ということになります。
歩掛が悪くなる要因
- 作業環境が狭い、暗い、高所などで作業しにくい
- 材料の運搬距離が長い、搬入経路が複雑
- 熟練度の低い作業員が多い
- 不慣れな工法や特殊な材料を使っている
- 雨天や冬季など天候による制約がある
「歩掛が悪い」とは単なる数字の問題ではなく、現場の条件や人的要因を反映した“作業効率の評価”でもあります。積算では、こうした現場ごとの条件を考慮して歩掛を調整することが、実態に合った見積を作るために重要です。
「人工」とは?歩掛との違いをわかりやすく解説
建設業における「人工(にんく)」とは、作業員1人が1日働いたときの作業量を表す単位です。たとえば、1人が2日かかる作業は「2人工」、2人で1日作業した場合も合計で「2人工」となります。

人工は、その作業にどれだけの人手(延べ作業量)が必要かを示す指標で、積算や見積書で頻繁に使われます。
たとえば、以下のような見積項目があったとします。

これは、「機械Aの取付には延べ3人工」「機械Bの取付には延べ6人工」が必要であることを示しています。この機械ABの取り付けを、仮に1日で終わらせるには9人の作業員が必要で、3日で終わらせるには3人の作業員が必要ということになります。人工に労務単価を掛けることで労務費を算出することができるというわけです。

建設業でよく使われますが、元職場のIT業界でも使ってましたし、
ビジネスマンなら聞いたことがあるのではないでしょうか?
ここで注意したいのが、歩掛(ぶがかり)との違いです。
歩掛は、作業1単位あたりに必要な人工数(=手間の目安)を示す数値であり、人工はそれに基づいて算出される作業全体の人手の合計量です。


たとえば、エアコン1台の設置にかかる歩掛が「0.5人工/台」だった場合、3台設置すれば「3台 × 0.5 = 1.5人工」になります。このように、歩掛 × 数量 = 人工 という関係で成り立っており、歩掛は人工を求めるための基準、人工はその結果と捉えるとわかりやすくなります。
今回は、エアコン1台の取り付け作業を「歩掛」として例に挙げましたが、実際にはどこまで細分化するかによって、歩掛と人工の解釈は異なる場合も。
エアコン1台を取り付けるには、室内機の設置・室外機の設置・配管・配線の接続など、いくつもの作業工程が必要です。これらの各作業に対して歩掛を設定し、それらを合算して「エアコン1台あたり〇人工」と捉える場合もあります。
このように、作業の単位や見積もりの粒度によって、歩掛と人工の区別があいまいになることがあり、理解を難しくしているポイントでもあります。
歩掛の計算方法と具体例|人工・労務費はこうやって求める


歩掛は、「作業1単位あたりに必要な人工数(手間)」を数値で表したものです。この歩掛を使うことで、現場ごとの作業量に応じた人工を計算し、労務費の見積りが可能になります。 基本的な計算式は以下の通りです。
歩掛の基本計算式
歩掛 =(1人 × 作業時間)÷ 8時間



作業時間:ある作業をする際にかかる時間
8時間:1日の労働時間
を表しています。
具体例:エアコンの取り付け作業(1台=4時間)
たとえば、作業員1人がエアコン1台を取り付けるのに4時間かかる場合、歩掛は次のように計算されます:
歩掛 =(1人 × 4時間)÷ 8時間 = 0.5人工/台



つまり、エアコン1台の取り付けには
0.5人工かかるということになります。
これを3台取り付けるとした場合:
0.5人工 × 3台 = 1.5人工
作業にかかる人手の合計(人工)は 1.5人工、つまり作業員1人で1.5日分の作業量が必要という計算になります。



歩掛も人工も単位が「人工」で表されることが多いので、
混乱する人も多いかもしれません。
労務費の計算
歩掛・人工の計算と合わせて、労務費の計算も解説します。
たとえば、労務単価が1人工あたり24,000円の場合、労務費は以下の通りです:
1.5人工 × 24,000円 = 36,000円
このように、歩掛・人工を使えば、作業の手間や人件費を明確に数値化でき、見積書や積算書に信頼性を持たせることが可能になります。





労務単価についても、
国土交通省から指標がでていますので参考にしてください。
建設物価を参考にするのも手です!
リンク
歩掛の種類とその使い分け|標準歩掛・実績ベースの歩掛とは?一覧はどこにある?


歩掛には、大きく分けて「標準歩掛」と「実績歩掛」の2種類があり、用途や使い方によって使い分ける必要があります。それぞれの特徴を理解しておくことで、積算や見積の精度を高めることができます。
標準歩掛とは?
標準歩掛とは、国や自治体、業界団体などが公表している、全国共通の基準値です。
国土交通省が「公共建築工事標準単価積算基準」を定めており、公共工事などの積算や、はじめて見積もる作業の参考値として広く用いられています。
公共性の高い工事において、客観的かつ透明性のある積算を行うためのベースとなるものです。
国土交通省が定める「標準歩掛の一覧表」はこちら!
実績ベースの歩掛とは?
実績ベースの歩掛は、自社の過去の現場データをもとに独自に設定する歩掛です。
実際の施工状況や作業員の熟練度、使用機材の有無、天候や敷地条件といった要素も反映されるため、より現実に近い積算が可能になるのが特徴です。
たとえば、同じ作業でも現場や人材の条件によって、かかる手間や効率は大きく異なります。
そのため、民間工事や社内積算では標準歩掛ではなく、自社の実績歩掛を使うことで、より正確な原価管理や見積が実現できます。
なお、実績ベースの歩掛を算出する際には、前項で紹介した「歩掛の基本計算式」を応用することができます。過去の作業実績を記録しておくことで、次回以降の見積精度向上にもつながります。
リンク
総括:【意外と知らない?】歩掛と人工の違いとは?建設業の積算で必須の基礎知識をわかりやすく解説
建設業における見積書や原価管理において、「歩掛(ぶがかり)」と「人工(にんく)」は、非常に基本でありながら実務に直結する重要な概念です。
- 人工とは、作業員1人が1日でこなす作業量の単位
- 歩掛とは、作業1単位あたりにかかる人工の目安
- 計算式を用いれば、作業量から人工、人工から労務費が算出可能
- 標準歩掛と実績歩掛を工事の種類に応じて使い分ける
- 信頼できる資料や過去データをもとに、歩掛を蓄積・活用することがコスト精度を高めるカギ
公共工事では標準歩掛の使用が原則ですが、民間案件や小規模工事では、自社の実績歩掛や現場条件を加味した判断が必要不可欠です。
初めはややこしく感じるかもしれませんが、実務の中で繰り返し使うことで自然と身についていくものです。
本記事が、「歩掛ってなんとなく聞いたことはあるけど、よく分からない」という方の疑問を解消する一助となれば幸いです。
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