建設業界では、下請け構造が一般的であり、現場の作業は元請けから下請け、さらに再下請けへと多層化しています。この構造により、責任の所在や権限の範囲が曖昧になりがちです。そのため、現場ごとに明確なリーダーシップを発揮できる責任者が求められます。
そこで重要な役割を担うのが現場代理人です。現場代理人は、現場での調整役や責任者としての立場を持ち、元請けや下請け間で円滑なコミュニケーションを図る役割があります。
この記事では、現場代理人の概要を踏まえつつ、施工体制台帳や再下請負通知書などで記載が求められる「権限及び意見の申出方法」に焦点を当てて解説します。この項目は、建設業法や契約内容に深く関わる重要な部分ですが、具体的な記載内容が曖昧になりがちです。本記事を通じて、法的背景や記載のポイントを再確認してください。
記事のポイント
- 現場代理人とは
- 現場代理人を配置する場合の通知義務
- 現場代理人の権限及び意見の申出方法とは
この記事を書いた人

事務員たなか(@tanaka_kodozimu)
建設業事務員のたなか(@tanaka_kodozimu)です。
元SEで安全書類作成をメインに、経理・総務・人事・IT土方なんでもやっています。
子ども二人の限界主婦。事務作業や子育てが少しでも楽になる情報を発信しています。
目次
現場代理人について

- 現場代理人とは
- 配置義務はないけれど、通知義務はあり!
現場代理人とは
現場代理人とは、契約上の工事の受注者(会社の代表者)の代理として、工事現場の責任者を務める者をいいます。本来は、工事請負業者の経営者が責任者となることが望ましいのですが、複数の工事現場が並行して行われることもあり、経営者が管理するのは現実的に難しい場合が多いです。そこで、従業員の中から現場代理人を選任し、現場の管理を任せることが一般的となっています。
現場代理人の配置義務について、建設業法上の明確な規定はありません。そのため、設置するかどうかは、基本的に注文者と請負人との契約内容で決定されます。
注文者との下請基本契約書の例
第〇条 (現場代理人)
乙は、個別工事に関して現場代理人を選任し、工事施工における責任ある命令系統を甲に対して書面で提出するものとする。
第〇条 (現場代理人)
現場代理人は、個別契約の履行に関し、工事現場に常駐して運営管理を行い、個別契約に基づく下請負人の全権を行使する。ただし、現場代理人の権限について下請負人が特別に委任または制限した場合は、元請負人の承諾を要する。なお、現場代理人と主任技術者は兼任可能とする。

上位企業との下請基本契約書を確認すると、このように記載している場合が多いです。取引先によって現場代理人の扱いは様々ですね。
一方で、公共工事においては現場代理人の設置が義務付けられており、適切な現場運営を担う重要な存在となっています。
(現場代理人及び主任技術者等)公共工事標準請負契約約款
第十条 受注者は、次の各号に掲げる者を定めて工事現場に設置し、設計図書に定めるところに
より、その氏名その他必要な事項を発注者に通知しなければならない。これらの者を変更した
ときも同様とする。
一 現場代理人
二 (A)[ ]主任技術者
(B)[ ]監理技術者
(C)監理技術者補佐(建設業法第二十六条第三項ただし書に規定する者をいう。以下同
じ。)
三 専門技術者(建設業法第二十六条の二に規定する技術者をいう。以下同じ。)
注 (B)は、建設業法第二十六条第二項の規定に該当する場合に、(A)は、それ以外の場合に使用する。(C)は、(B)を使用する場合において、建設業法第二十六条第三項ただし書の規定を使用し監理技術者が兼務する場合に使用する。
[ ]の部分には、同法第二十六条第三項本文の工事の場合に「専任の」の字句を記入する。



このように、公共工事においては現場代理人の配置義務が明記されています。
現場代理人について詳しくはコチラ!
配置義務はないけれど、通知義務はあり!
上述した通り、建設業法上、民間工事の現場代理人配置義務はありませんが、現場代理人を選任した場合は、注文者に書面にて通知する必要があります。
(現場代理人の選任等に関する通知)建設業法 第十九条の二
第十九条の二 請負人は、請負契約の履行に関し工事現場に現場代理人を置く場合においては、当該現場代理人の権限に関する事項及び当該現場代理人の行為についての注文者の請負人に対する意見の申出の方法(第三項において「現場代理人に関する事項」という。)を、書面により注文者に通知しなければならない。
3 請負人は、第一項の規定による書面による通知に代えて、政令で定めるところにより、同項の注文者の承諾を得て、現場代理人に関する事項を、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより通知することができる。この場合において、当該請負人は、当該書面による通知をしたものとみなす。
つまり、現場代理人を配置する場合は、契約書や通知書等によって、現場代理人の権限に関する事項と、意見の申出方法を通知しなければならないということです。



皆さんの会社の基本契約書には、現場代理人の権限と意見申出方法は記載されていますか?
現場代理人の配置義務について詳しくはコチラ!
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施工体制台帳・再下請負通知書における現場代理人記載ポイント


- 権限及び意見の申出方法とは?記入例も紹介
- 権限及び意見の申出方法の記入例
- 権限及び意見の申出方法に「口頭及び文書による」と記載するのはアリか?
権限及び意見の申出方法とは?


施工体制台帳や再下請負通知書には、現場代理人の「権限及び意見の申出方法」を記載する欄があります。
「権限」とは、工事における現場代理人が持つ具体的な権限を示すもので、工期の変更や請負代金の変更等を指します。一方、「意見の申出方法」とは、注文者が現場代理人の行為について元請業者に意見を申し出る際の手順や方法を指します。
権限
- 工期の変更
- 請負代金額の変更
- 請負代金の請求・受領
- 工事関係者に関する措置請求
- 契約の解除に係るものを除く一切の権限
意見の申出方法
- 書面
- 口頭及び書面
- 電子情報処理組織
これらの項目を明確に定めることは、発注者と元請業者間のコミュニケーションルールを整備し、トラブルを未然に防ぐために重要です。
これらの事項について、建設業法では相手方に対して書面により通知することになっていますので、通知書や契約書にて事前に明記し、通知しておく必要があります。
注文者との下請基本契約書の例(意見の申出方法と権限についての記載部分)
第〇条 (書面主義)
この契約の各条項に基づく協議、承諾、通知、指示、催告、請求等は、原則として、書面により行う。
第〇条 (現場代理人)
現場代理人は、この契約の履行に関し、工事現場に常駐し、その運営、取締りを行うほか、請負代金額の変更、請負代金の請求及び受領、請求の受理、決定及び通知並びにこの契約の解除に係る権限を除き、この契約に基づく受注者の一切の権限を行使することができる。



このような形で契約書に記載されています。
権限と意見の申出方法についてきちんと明記されていますね!
権限及び意見の申出方法の記入例
上記を踏まえると、施工体制台帳や再下請負通知書の「権限及び意見の申出方法」には、「基本契約書第〇条の通り」「約款第〇条に準拠する」と記載するのが正しい方法です。
権限及び意見の申出方法の記入例
- 基本契約書第〇条の通り
- 契約書第〇条に準拠する
- 約款第〇条の通り
権限及び意見の申出方法に「口頭及び文書による」と記載するのはアリか?



結論から申しますと、本来はナシだと思います。
過去に何百回と、施工体制台帳や再下請負通知書の権限及び意見の申出方法に「口頭及び文書による」と記入してましたが、一度も指摘を受けたことはありません。しかし、上記の背景を踏まえると、この記載方法は十分ではない可能性が高いです。
他の情報サイトでも「書面による」「口頭による」といった記載で問題ないとされていますが、これらは「意見の申出方法」に限定された表現であり、「権限」の具体的内容には触れていません。そのため、「権限及び意見の申出方法」という項目全体を適切に網羅する書き方としては不十分です。
特に公共工事の場合、契約書の記載内容に基づき具体的かつ適格に記載しなければ、指摘を受ける可能性もあるようです。「契約書第〇条に準拠する」といった、より詳細かつ正確な記載が求められます。
また、注文者との合意があれば問題ありませんが、基本的に口頭での対応を認めない発注者も多く存在します。口頭でのやり取りはトラブルの原因となるケースが多いため、書面や電子文書として証拠を残す方が、後々のトラブルを防ぐ上で有効です。
再下請負通知書の詳しい書き方はコチラ!
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総括:【口頭では駄目⁉】現場代理人の権限と意見の申出方法について徹底解説!
現場代理人の「権限及び意見申出方法」は、施工体制台帳や再下請負通知書で記載が求められる重要な項目です。これらを適切に記載することで、現場運営が円滑になり、発注者や関係者間の信頼関係を強化できます。
この記事を参考に、契約書や施工体制台帳・再下請負通知書の記載内容を見直し、トラブルのない現場運営を目指してください。適切な書類作成と手続きが、現場の信頼性と効率性を高めるカギとなります。
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