建設業では、危険予知(KY)活動や 危険予知トレーニング(KYT)が日常的に実施され、作業現場での事故を未然に防ぐ取り組みが行われています。特に脚立を使用する作業は、建設現場や倉庫、工場、一般家庭でも日常的に行われますが、転倒や落下による労災事故が多く、注意が必要です。
脚立による事故は「不安定な姿勢」「不適切な使用」「作業環境の問題」などが原因とされています。こうした事故を防ぐためには、危険予知活動や危険予知訓練が有効です。
本記事では、脚立を使用する際の危険予知の考え方や実際の安全対策、KYT(危険予知トレーニング)の具体例について詳しく解説します。安全対策を徹底し、事故を未然に防ぐためのポイントを理解しましょう。
記事のポイント
- 危険予知活動とは
- 危険予知訓練(トレーニング)とは
- 脚立作業における危険予知訓練
- 脚立作業の現状把握と対策
この記事を書いた人

事務員たなか(@tanaka_kodozimu)
建設業事務員のたなか(@tanaka_kodozimu)です。
元SEで安全書類作成をメインに、経理・総務・人事・IT土方なんでもやっています。
子ども二人の限界主婦。事務作業や子育てが少しでも楽になる情報を発信しています。
目次
危険予知活動(KY)について

- 脚立の事故と労災事例
- 危険予知(KY)活動とは?
脚立の事故と労災事例:どのような事故が多いのか?
脚立を使用した作業における労働災害は、建設業をはじめとする多くの業種で重大な問題となっています。厚生労働省の報告によると、建設業における令和5年の労働災害による死亡者数は223人で、そのうち「墜落・転落」によるものが86人と最多となっています。 墜落・転落災害を起因物別でみると「足場、屋根、はしご、脚立等」で多く発生しています。
令和6年には、立木の剪定作業中に三脚脚立から墜落する死亡災害が発生しており、脚立や三脚脚立を使用した高所作業における墜落・転落事故のリスクが明らかです。適切な使用方法や安全対策の徹底が、労働災害の防止に不可欠であることが強調されています。
危険予知(KY)活動とは?
危険予知(KY)活動とは、職場や作業の状況の中に潜む危険要因を事前に予知・予測し、事故や災害を未然に防ぐための対策をたてる活動を指します。これは、建設業に限らず、製造業、運輸業、医療現場など、さまざまな業界で取り入れられている安全管理の基本です。
厚生労働省の統計によると、労働災害の9割以上が「不安全な行動」によって引き起こされており、その原因は、大きく分けて「ヒューマンエラー(不注意)」と「リスクテイキング(危険行為)」の2つに分類されます。
不安全な行動の原因
- ヒューマンエラー:勘違いや聞き間違い意図しないうっかりミス
- リスクテイキング:仕事の慣れや油断による、作自ら危険な行動をしてしまうこと

ヒューマンエラー
ヒューマンエラーは、見間違いや聞き間違い、ぼんやりやうっかりといった不注意による行動であり、例えば脚立の足を踏み外してしまう、開き止め金具をロックし忘れてしまうといったケースが該当します。
リスクテイキング
一方、リスクテイキングは、時間短縮や作業効率を優先し、安全対策を怠る行動であり、「これくらい大丈夫だろう」と高所作業時に脚立の天板(最上段)に乗ってしまうようなケースや、支え無しでひとりで作業をしてしまうといったことが挙げられます。
このような不安全行動を防ぐためには、現場のリスクを事前に予知し、対策を講じることが不可欠です。これらの活動を継続的に行うことで、作業員一人ひとりの安全意識を高め、事故を未然に防ぐことができ、KY活動は、「事故を防ぐための特別な作業」ではなく、日々の仕事の中で当たり前に行うべき習慣として根付かせることが重要です。
脚立作業においても、「ちょっとした油断や慣れが大事故につながる」ことを理解し、事前に危険を予知し、安全な作業環境を確保する意識を持つことが何より大切です。
安全意識を高めるために、安全標語の作成もよく用いられます!
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危険予知訓練について

- 危険予知訓練・危険予知トレーニング(KYT)とは?
- 危険予知訓練の目的
- 危険予知訓練の実施方法(基礎4ラウンド法)
危険予知訓練・危険予知トレーニング(KYT)とは?
危険予知訓練(KYT) とは、作業現場や職場に潜む危険を的確に予測・防止する能力を高めるための訓練です。日常的な危険予知活動(KY)とは異なり、KYTはより体系的な方法で危険を見抜く力を養うためのトレーニングであり、事故を防ぐために重要な手法とされています。
危険予知訓練の目的
KYTの目的は、単に危険を予測するだけでなく、作業者が安全な行動を自ら考え、実践する力を身につけることにあります。具体的には、以下の5つの要素が重要視されています。
危険予知訓練の目的
- 感受性を鋭くする
→危険に対する意識を高め、「何かおかしい」と感じる直感力を鍛える。 - 集中力を高める
→作業中の注意力を向上させ、周囲の環境や自分の行動に意識を向ける。 - 問題解決能力を向上させる
→危険な状況に直面したときに、適切な解決策を考え、即座に行動できる力を養う。 - 実践への意欲を強める
→訓練を通じて安全行動の大切さを理解し、積極的に実践する姿勢を育む。 - 職場の風土づくり
→個人だけでなく、チーム全体で危険を予知し、安全を重視する職場環境を形成する。

職場全体で安全意識を高めることが大切なんですね!
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危険予知訓練の実施方法(基礎4ラウンド法)
現在、多くの企業や現場で標準的に採用されているのが 「KYT基礎4ラウンド法」 です。この手法は、住友金属工業が開発し、中央労働災害防止協会が改良 したもので、旧国鉄の指差し呼称を組み合わせた体系的なトレーニング方法です。
KYT基礎4ラウンド法の手順
- 第1ラウンド:「現状把握」
- 第2ラウンド:「本質追求」
- 第3ラウンド:「対策立案」
- 第4ラウンド:「行動目標の設定」
事前準備
- 作業現場の写真やイラストシートの準備
→視覚的に危険を認識しやすくするため、何かしらの作業をしているイラストを準備する。 - チーム編成
→5人~6人程のチームを作る。 - 役割分担
→リーダー(進行)と書記を決める。



写真やイラストが準備できない場合は、作業名やヒヤリハット事例等をテーマにしても良いそうです。「脚立でポスターを貼り換える作業」等。
第1ラウンド:「現状把握」


作業現場のイラストや写真を活用し、「どこにどんな危険が潜んでいるか?」を全員で話し合います。気づいた危険は、 「○○なので○○して(危険要因)、○○になる(現象)」 のように具体的に発言します。
危険要因は、「不安全な状態」と「不安全な行動」の組み合わせから成り立つことが多いため、できるだけこの2つを関連付けて表現することが重要です。
- 抽象的な表現は避け、具体的な表現を使う。
→「例:何がどのように〇〇なのか」 - 否定的な言葉はなるべく使わない。
→「 保護眼鏡を付けていないので~。」「 顔が近いので~。」
現状把握の例
- 脚立の設置場所が不安定なので(不安全な状態)、作業をして片側一方だけに負荷がかかたときに(不安全な行動)、バランスを崩して落下する(現象)。
- 脚立を開閉ドアの近くに設置したため(不安全な状態)、作業を知らない人がドアを開け閉めし(不安全な行動)、その衝撃で脚立が崩れて落下する(現象)。
第2ラウンド:「本質追求」
第1ラウンドで挙げた危険のうち、チームにとって特に重要なものを絞り込む段階です。各危険要因の発生頻度や影響の大きさを検討し、危険だと思うものには「〇」、特に重要だと思うものには「◎」をつけて優先順位を決めます。
「脚立の設置場所が傾いている」「作業中に工具を持ったまま昇降している」といった危険があれば、発生の可能性や影響の大きさを議論し、特に重大なものを◎とします。
第3ラウンド:「対策立案」
第3ラウンドでは、第1ラウンドで洗い出し、第2ラウンドで特に危険と判断したポイントに対して、「あなたならどうする?」を考え、具体的な予防策・防止策を立案すること が目的です。ただ危険を認識するだけでなく、それに対して実践可能な対策を考え、現場で実行できる形に落とし込むことが重要です。
チームで意見を出し合いながら、より効果的な安全対策を検討します。
第4ラウンド:「行動目標の設定」
第4ラウンドでは、第3ラウンドで考えた対策の中から特に重要なものを選び、「チーム行動目標」を設定することが目的です。単に危険を認識し対策を考えるだけでなく、それを実際の行動に落とし込み、現場で確実に実践することが求められます。
チーム行動目標が設定したら、それに伴う指差し唱和(指差し呼称)を決定しましょう。「脚立の設置場所を確認してから昇る、ヨシ!」といった具合で、チーム全員で指差し呼称を行って訓練終了です。
このステップを通じて、チーム全員が共通意識を持ち、安全な作業を習慣化できるようになります。危険を知るだけでなく、それを防ぐための具体的な行動を決め、現場で実践することこそがKYTの最終目標であり、事故を未然に防ぐための最も重要なポイントです。
脚立作業における危険予知の例


- 第1ラウンド:「現状把握」の例
- 第3ラウンド:「対策立案」の例
第1ラウンド:「現状把握」の例
第1ラウンドでは、作業現場のイラストや写真を用いて、「どこに危険があるのか?」を考えます。作業員が実際に直面するリスクを洗い出し、目に見える危険要因を明確にすることが目的です。ここでしっかりと現状を把握することで、次のステップでより具体的な対策を考えることができます。
以下に、脚立作業における「現状把握」の例を示しますので、是非危険予知訓練の参考にしてください。
- 脚立を傾いた地面に設置して作業をしているため、バランスを崩して脚立が倒れ、作業者が落下する
- 脚立を開閉ドアの近くに設置しているため、他の人がドアを開閉した衝撃で脚立が動き、作業者が転倒する
- 脚立の天板(最上段)に乗って作業をしているため、重心が高くなりバランスを崩して落下する
- 脚立の足ゴムが劣化して滑りやすい状態で作業をしているため、脚立が滑り、作業者が落下する
- 工具や資材を持ちながら昇降しているため、片手でバランスが取れず、倒れて落下する
- 脚立が規定の耐荷重を超える重量で使用されているため、脚立が破損し、作業者の腕が切れる。
- 周囲の安全確認をせずに脚立を設置したため、別の作業者が脚立にぶつかり、脚立が転倒する。
- 作業エリアが暗いため、昇降中に足を踏み外し、転倒する。
- 脚立の足場に泥や水が付着しているため、作業中に足が滑り、捻挫や骨折をする。
- 脚立の足場に工具を置いたため、作業中に工具が落下し、下にいる作業者が頭を打つ。
- 脚立が狭い通路に設置されているため、別の作業者や荷物が脚立に接触し、脚立が移動して腰を捻る怪我をする。
- 作業中に脚立のステップで足を踏み外し、バランスを崩して肩を強く打つ。
- 脚立の上で高い位置の作業に集中しすぎたため、腰や肩に負担がかかり筋肉を痛める。
- 脚立を正しい方向に広げずに作業したため、脚立が突然閉じて挟まれた指を負傷する。
- 脚立を過剰に傾けて作業したため、脚立自体が折れ曲がり、その衝撃で工具が飛散して周囲に被害が出る。
- 天井に近い位置で作業していたため、天井の突起物に頭をぶつけて頭部を切る怪我をする。
- 脚立を持ち運ぶ際に周囲を確認せずに移動したため、他の作業者にぶつかり、衝突による怪我が発生する。
- 脚立のステップを急いで昇り降りしたため、足が挟まって捻挫をする。
- 強風が吹いている屋外で脚立を使用したため、バランスを崩して脚立が横倒しになり周囲の機材を破損させる。
- 長時間脚立に乗って作業していたため、足がしびれて足元がふらつき落下する。
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第3ラウンド:「対策立案」の例
第3ラウンドでは、第1ラウンドで洗い出し、第2ラウンドで本質を追求した危険要因に対し、「どのようにすれば事故を防げるか?」を具体的に考え、現場で実践できる対策を立案することが目的です。単に「危ない」と認識するだけではなく、誰もが実行できる安全対策 を考えることが重要です
。ここでは、実際の作業現場を想定しながら、脚立作業における「対策立案」の具体例を示します。
脚立を傾いた地面に設置している場合
- 脚立を平坦で安定した地面に設置し、必要に応じて脚立の下に安定板を敷く。
- 地面が傾いている場合は、脚立ではなく作業台や足場を使用する。
- 脚立の脚が滑らないよう、滑り止めのゴムマットを使用する。
開閉ドア付近に脚立を設置している場合
- ドアの近くで作業する際は、ドアが開かないように「作業中・開閉禁止」の張り紙を貼る。
- ドア付近の作業時は、補助者を配置してドアの使用を制限する。
- ドアから脚立を1メートル以上離れた位置に設置する。
天板(最上段)に乗って作業をしている場合
- 天板の使用を禁止し、安全に作業ができる高さの脚立を選ぶ。
- 高い場所での作業には、脚立ではなく作業台や高所作業車を使用する。
- 天板に注意喚起シールを貼り、「立ち入り禁止」を明示する。
脚立の足ゴムが劣化している場合
- 定期的に脚立を点検し、足ゴムの劣化が見られたら速やかに交換する。
- 劣化した脚立を現場で使用しないよう、整備済みの脚立にラベルを貼る。
- 滑りやすい床では、追加の滑り止めシートを使用する。
工具や荷物を持ちながら昇降している場合
- 工具や資材は専用のツールバッグを使用し、作業中は脚立に取り付けておく。
- 昇降中は必ず両手を使用して脚立を掴む。
- 大きな荷物は補助者に手渡すか、荷揚げ用ロープを使用する。
周囲に物が散乱している場合
- 作業前に周囲を整頓し、脚立周辺に障害物がないことを確認する。
- 足元のケーブルや工具は整理し、視認しやすい位置に置く。
- 通路に脚立を設置する場合、コーンやバーで作業区域を確保する。
高所で長時間作業をしている場合
- 高所作業は一定時間ごとに休憩を取り、負担を軽減する。
- 作業前にストレッチを行い、筋肉の緊張をほぐしておく。
- 長時間作業が必要な場合は、脚立ではなく安全性の高い作業台を使用する。
強風が吹いている屋外で脚立を使用する場合
- 強風下では屋外で脚立作業を行わず、天候が落ち着くまで作業を延期する。
- 作業が必要な場合は、補助者を配置して脚立を押さえる。
- 風を避けるために、可能であれば作業エリアを囲むシートを設置する。
これらの例は、脚立作業中に発生しうる危険に対して現実的かつ実践可能な対策を示しています。各現場の状況に応じて、さらに具体的な対策を追加することが効果的です。
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総括:脚立作業の危険予知活動・危険予知訓練を徹底解説!KYTを活用した事故防止対策
脚立作業は身近な作業でありながら、転倒や墜落などの労働災害が多く発生する危険な作業のひとつです。事故を防ぐためには、危険予知活動(KY)や危険予知訓練(KYT)を活用し、事前にリスクを把握し、適切な対策を講じることが不可欠です。
本記事では、脚立作業におけるKYTの重要性について解説しました。「脚立の設置場所の安定性」「作業中の動作」「周囲の環境」を常に意識し、安全な作業手順を守ることが事故防止の鍵となります。
日常の業務にKYTを取り入れ、作業者全員が危険予知の意識を持つことで、職場全体の安全文化を高めていくことが重要です。
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