工場や作業現場では、粉じんや有害物質が空気中に飛散することがあり、作業者の健康や機械設備への影響が懸念されます。こうしたリスクを軽減するために活用されるのが「局所排気装置」や「集塵機」です。しかし、用途が似ているため、両者の違いや使い分けが分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
実際には、これら2つの装置は目的や法令対応、設置基準などに大きな違いがあり、混同してしまうと職場の安全対策に不備が生じる恐れもあります。本記事では、局所排気装置と集塵機の違いを明確に整理し、それぞれの特徴や法的義務、種類、点検項目などをわかりやすく解説します。適切な装置を選び、労働環境の安全性を高めるための参考にしてください。
記事のポイント
- 局所排気装置とは
- 局所排気装置と集塵機の違い
- 届出義務について
- 法令の確認
- 局所排気装置の点検について
この記事を書いた人

事務員たなか(@tanaka_kodozimu)
建設業事務員のたなか(@tanaka_kodozimu)です。
元SEで安全書類作成をメインに、経理・総務・人事・IT土方なんでもやっています。
子ども二人の限界主婦。事務作業や子育てが少しでも楽になる情報を発信しています。
目次
局所排気装置と集塵機の違いとは?

- 局所排気装置とは
- 集塵機とは
- 局所排気装置と集塵機の違いを解説
- 局所排気装置に届出は必要
- 局所排気装置はどんな種類がある?大きく分けて3種類
- 局所排気装置に必要な“制御風速”とは?法令で決まっている基準
- 局所排気装置の点検とメンテナンス
局所排気装置とは

局所排気装置とは、有機溶剤・特定化学物質・金属ヒュームなどの有害なガス・蒸気・微粒子を発生源のすぐ近くで吸い取り、外部に排出するための装置です。作業者のばく露を防止するために設置されます。
特定の有機溶剤を使用する作業では、作業者が有害な蒸気を吸い込まないように、法律で排気装置の設置が義務づけられています。屋内作業場等で第一種または第二種有機溶剤等を取り扱う場合は、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備、局所排気装置、またはプッシュプル型換気装置を設ける必要があります(有機則第5条)。
また、タンク内作業等で第三種有機溶剤等を扱う場合にも、同様の設置が義務付けられており、全体換気装置の設置も選択肢として認められています(同第6条)。

臨時・短時間・設置が困難な場合は特例措置もあるようです。
なお、有機則の対象物質は2014年11月の改正で54種から44種に減少しています。クロロホルムなど発がん性の高い10物質は、より厳格な「特定化学物質障害予防規則(特化則)」の管理下に移行し、法的な区分と管理方法が再編されました。対象の有機溶剤は厚生労働省のHPに記載されていますので、是非ご確認ください。
(第一種有機溶剤等又は第二種有機溶剤等に係る設備)引用:有機溶剤中毒予防規則 第五条、第六条
第五条 事業者は、屋内作業場等において、第一種有機溶剤等又は第二種有機溶剤等に係る有機溶剤業務に労働者を従事させるときは、当該有機溶剤業務を行う作業場所に、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設けなければならない。
(第三種有機溶剤等に係る設備)
第六条 事業者は、タンク等の内部において、第三種有機溶剤等に係る有機溶剤業務に労働者を従事させるときは、当該有機溶剤業務を行う作業場所に、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を設けなければならない。
2 事業者は、タンク等の内部において、吹付けによる第三種有機溶剤等に係る有機溶剤業務に労働者を従事させるときは、当該有機溶剤業務を行う作業場所に、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設けなければならない。
局所排気装置は、フード(吸引口)・ダクト・空気清浄装置・排気ファンなどで構成されており、発生源を囲い込むような形で設置されることが特徴です。
局所排気装置は、フード(吸引口)・ダクト・空気清浄装置・排気ファンなどで構成されており、発生源を囲い込むような形で設置されることが特徴です。汚れた空気は屋外へ排出されますが、そのまま排気すると大気を汚染するおそれがあるため、集塵機や排ガス処理装置といった空気清浄装置をダクトの途中に設置するのが一般的です。これにより、空気中の有害成分や粉じんを適切に除去し、環境への負荷を最小限に抑えることができます。
集塵機とは


集塵機は、切削・研磨・溶接などの作業で発生する粉じんやヒューム(煙状の微粒子)を効率よく吸引・除去する装置です。職場の空気を清浄に保つことで、作業者の健康を守るだけでなく、製品への異物混入や機械装置への粉じん侵入も防止でき、作業環境の安全性や品質管理に大きく貢献します。また、粉じんの飛散を抑えることで視界が確保され、火災・爆発といったリスクの軽減にもつながります。



つまり、空気清浄機の役割ですね!
空気清浄装置には大きく分けて「除じん装置」と「排ガス処理装置」があり、集塵機はそのうちの除じん装置の一種です。空気中に浮遊する粉じんや有害微粒子を吸引し、屋外への放出を防ぐことで大気汚染の防止にも役立つ設備です。
局所排気装置と集塵機の違いを解説


局所排気装置と集塵機は、どちらも作業環境の空気をきれいに保つために使われる設備ですが、その役割や仕組みには明確な違いがあります。
集塵機は、空気中に舞っている粉じんや微粒子を吸い込み、フィルターなどで回収・分離したうえで、きれいになった空気を室内に戻す、いわば「空気清浄装置」です。室内の空気を循環させながら浄化することで、作業環境の衛生を保つことを主な目的としています。
一方、局所排気装置の大きな機能は、有機溶剤や化学物質などの有害な空気を吸い取り、屋外に排出するための装置です。ただし、排気する空気に有害物質や粉じんが含まれていると、外部環境を汚染してしまうおそれがあるため、排気の途中に集塵機や排ガス処理装置といった空気清浄機能が組み込まれていることが一般的です。
つまり、集塵機と局所排気装置はそれぞれ独立した設備として存在しますが、局所排気装置の一部に“集塵機能”が組み込まれているケースも多いのです。作業環境の安全と、外部環境への配慮の両立を図るため、このような複合的な構成が求められています。
局所排気装置に届出は必要


局所排気装置の設置や変更を行う際は、労働基準監督署への届出が必要となります。これは、労働安全衛生法により義務付けられており、工事開始日の30日前までに行わなければなりません。
届出に必要な書類例



その他必要書類がある場合も考えられますので、
所轄の労働基準監督署にお問い合わせください。
(計画の届出等)引用:労働安全衛生法 第八十八条
第八十八条 事業者は、機械等で、危険若しくは有害な作業を必要とするもの、危険な場所において使用するもの又は危険若しくは健康障害を防止するため使用するもののうち、厚生労働省令で定めるものを設置し、若しくは移転し、又はこれらの主要構造部分を変更しようとするときは、その計画を当該工事の開始の日の三十日前までに、厚生労働省令で定めるところにより、労働基準監督署長に届け出なければならない。ただし、第二十八条の二第一項に規定する措置その他の厚生労働省令で定める措置を講じているものとして、厚生労働省令で定めるところにより労働基準監督署長が認定した事業者については、この限りでない。
法令遵守の重要性
局所排気装置の設置や変更に関する届出は、作業者の健康を守るために設けられた制度です。適切な手続きを行わない場合、法令違反として指導や是正勧告の対象となる可能性があります。また、届出を怠った場合、労働災害が発生した際に企業の責任が問われることもあります。
局所排気装置を導入する際は、対象物質や作業内容を確認し、忘れずに労働基準監督署への届出を行いましょう。適切な手続きを踏むことで、作業環境の安全性を確保し、法令遵守を徹底することが求められます。
局所排気装置はどんな種類がある?大きく分けて3種類


局所排気装置には、作業内容や有害物質の性質に応じて、いくつかのタイプに分類されます。主な分類は、「囲い式」「外付け式」「レシーバー式」の3種類で、それぞれ特徴と使用用途が異なります。
囲い式
まず、囲い式(密閉式)は、装置内に作業物や発生源を完全または部分的に囲い込む構造です。ヒュームや有害ガスの漏洩リスクが高い作業に向いており、確実に吸引できる方式です。実験室や化学物質の秤量作業などでよく使われるドラフトチャンバー型が該当します。
外付け式
次に、外付け式は、有害物質の発生源近くに吸引口(フード)を設置してまわりの空気と一緒に有害物質を吸引するものです。作業者の動きを妨げずに効率よく吸引できる一方、フードに吸引される高濃度の有機溶剤蒸気にばく露
しないよう注意も必要です。
レシーバー式
レシーバー式は、室内の空気の流れをうまく活用し、誘導気流によって有害物質を吸引する方法です。大型の作業空間や、囲いが難しい作業に適しており、囲い式や外付け式では対応しきれない場合に導入されることがあります。
これらの種類は、単に吸引力の強さだけでなく、作業内容・設置スペース・有機物質の種類・作業者の安全確保とのバランスで選定することが重要です。誤った形式を選ぶと、有害物質の拡散を防ぎきれず、十分な効果が得られないこともあるので、専門の販売業者などに確認してください。
局所排気装置に必要な“制御風速”とは?法令で決まっている基準
局所排気装置が十分に機能するためには、フードの開口部で一定以上の「制御風速(control velocity)」を確保することが重要です。制御風速とは、有害物質をしっかりと吸引・捕捉するために必要とされる最小限の空気の流れの速さのことで、作業者のばく露を防ぐ上で欠かせない指標となっています。
吸引対象によって必要な風速は異なりますが、たとえば有機溶剤を扱う作業では、「有機溶剤中毒予防規則(有機則)」第16条において、フードの型式ごとに必要な制御風速の基準が明記されています。
型式 | 制御風速(m/秒) | |
囲い式フード | 0.4 m/秒 | |
外付け式フード | 側方吸引型 | 0.5 m/秒 |
下方吸引型 | 0.5 m/秒 | |
上方吸引型 | 1.0 m/秒 |
※囲い式ではフード開口面での最小風速、外付け式では吸引範囲内の作業位置での風速が対象となります。
これらの基準を満たしていないと、有害物質が装置から漏れ、作業空間に拡散してしまう恐れがあります。そのため、装置の導入・設計時には、フードの形状・ダクトの長さ・ファンの出力などを総合的に調整し、必要な風速を安定して出せる構造にすることが求められます。
また、制御風速は時間の経過とともに低下することもあるため、装置の性能を確認するための定期的な風速測定が推奨されています(点検・記録管理の詳細は次節で解説します)。
適切な制御風速を維持することは、局所排気装置の“基本性能”を保証することに他なりません。作業者の安全を守るためにも、設計段階から法令基準をしっかり押さえることが大切です。
局所排気装置の点検とメンテナンス


局所排気装置は、有害物質から作業者の健康を守る“命綱”とも言える設備ですが、設置して終わりではなく、定期的な点検と適切なメンテナンスがあってこそ、安全性が保たれます。もし十分に機能していなければ、有害物質が吸引されずに作業場に拡散し、重篤な健康被害や法令違反に繋がるおそれもあります。
このため、「有機溶剤中毒予防規則」「特定化学物質障害予防規則」などに基づき、局所排気装置は年1回以上の定期自主検査が義務付けられています(有機則 第20条・安衛則 第30条)。また、点検記録は3年間保存することが求められます。
点検項目
- フード、ダクト、ファンの摩耗・腐食・破損などの有無
- ダクト・排風機の粉じん堆積状況
- ダクト接続部の緩みの有無
- モーターとファンをつなぐベルトの作動状態
- 吸気・排気の能力の確認
- その他、性能を維持するために必要な項目
なお、これらの点検を行うにあたっては、専門的な知識と実務経験を持つ担当者、もしくは必要に応じて外部業者が実施することになります。専門的な知識を持つ担当者とは、「局所排気装置等定期自主検査者研修コース」を修了した者であり、この研修は誰でも受けられるわけではなく、次のような条件に該当する人に限られます。
研修を受けるための主な要件
- 衛生工学衛生管理者や作業環境測定士の資格を持つ方
- 理系大学卒業後に局所排気装置などの設計・検査実務を6ヶ月以上経験した方
- 高校理系卒業+1年以上の実務経験を持つ方
- 関連装置の設計・検査業務に2年以上従事した経験がある方
- 特定化学物質等作業主任者、石綿作業主任者、鉛作業主任者又は有機溶剤作業主任者の資格を持ち、1年以上作業に従事した経験がある方
- 粉じん作業特別教育指導員の資格を持つ方
このように、資格そのものは必須ではありませんが、一定の実務経験や知識が求められるため、事業者が自社対応する場合でも、対応できる人材がいるかを慎重に確認する必要があります。
性能を維持し続けるには、定期点検・記録の保存・必要に応じた修理や清掃の実施が欠かせません。安全と法令順守の両立のためにも、信頼できる担当者による計画的な保守体制を整えましょう。
総括:【安全と法令対応のカギ!】局所排気装置と集塵機の違いとは?役割から点検義務までわかりやすく解説
局所排気装置と集塵機は、一見似たような目的に思われがちですが、その役割や法的扱い、設計の考え方には大きな違いがあります。局所排気装置は、有機溶剤や化学物質などの有害物質が作業場に拡散する前に、発生源で確実に排出するための装置であり、多くのケースで設置義務と届出が課せられています。一方、集塵機は主に粉じんを回収し、空間の清浄化や衛生管理を目的とした設備で、法令での義務化はされていないことがほとんどです。
現場の安全を守るためには、作業内容や取り扱う物質、作業環境の構造に応じて、適切な設備を選定・設置することが不可欠です。局所排気装置には風速管理や点検、ダクト設計なども関わってきますが、それらの正しい運用とメンテナンスが、作業者の健康を守る最も確実な方法といえるでしょう。
また、空気清浄装置や集塵機との併用によりさらに安全性を高めることも可能です。法令遵守はもちろんのこと、作業者が安心して働ける環境づくりのために、排気対策は今一度見直す価値があります。
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