「SDS」や「MSDS」という言葉を耳にしたことはあるけれど、正確な違いや使い方まではよくわからない――そんな方も多いのではないでしょうか。
SDS(安全データシート)は、化学物質を安全に取り扱うために欠かせない情報がまとめられた書類で、現場や事務での管理、作業者の安全確保に大きく関わるものです。一方で、MSDSという似た名称も存在しており、どちらを使えばよいのか混乱するケースも見られます。

安全書類の「有機溶剤・特定化学物質等持込使用届」を提出するときに、提出を求められることもありますね!
この記事では、「SDSとMSDSの違い」を軸に、SDSとは何か?入手方法、対象となる化学物質の一覧など、実務で役立つ情報をわかりやすく解説します。
「SDSがないけどどうすればいい?」と困った経験がある方も、ぜひ最後までご覧ください。
記事のポイント
- SDSとは
- SDSとMSDSの違い
- SDSはどこで入手する?
- SDSに関する法律3法
- 一覧表の入手方法
この記事を書いた人


事務員たなか(@tanaka_kodozimu)
建設業事務員のたなか(@tanaka_kodozimu)です。
元SEで安全書類作成をメインに、経理・総務・人事・IT土方なんでもやっています。
子ども二人の限界主婦。事務作業や子育てが少しでも楽になる情報を発信しています。
目次
SDSとMSDSの違いとは?今さら聞けない安全データシートの基本


- SDS(安全データシート)とは?どんなときに必要なのか
- SDSの役割とは?安全データシートが果たす3つの目的
- SDSとMSDSの違いとは?正式名称や使われ方の変化を解説
- MSDSが必要な場合ってまだある?古い書式の取り扱いに注意
- SDSはどこで入手できる?もし手元にない場合は?
SDS(安全データシート)とは?どんなときに必要なのか


SDSとは「Safety Data Sheet(安全データシート)」の略で、化学物質の危険性や取り扱い方法、応急措置などに関する情報が記載された書類です。日本語では「安全データシート」と呼ばれ、製造業や建設業をはじめ、さまざまな現場で活用されています。
たとえば、建設現場で使う塗料や接着剤、工場で使用する洗浄剤などには、人体や環境への影響がある化学成分が含まれていることがあります。そうした物質を安全に取り扱うためには、その性質や注意点を事前に知っておく必要がありますよね。その「情報の説明書」として機能するのが、SDSです。
SDSの記載項目は、国際的なガイドラインであるGHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)に基づき、以下の16項目が定められています。
SDS記載しなければならない項目
- 化学品及び会社情報
- 危険有害性の要約
- 組成及び成分情報
- 応急措置
- 火災時の措置
- 漏出時の措置
- 取扱い及び保管上の注意
- ばく露防止及び保護措置
- 物理的及び化学的性質
- 安定性及び反応性
- 有害性情報
- 環境影響情報
- 廃棄上の注意
- 輸送上の注意
- 適用法令
- その他の情報



SDSには、
上記の項目をこの順番どおりに記載しなければなりません。
これらの情報を化学物質ごとに記載することで、使用者がその性質やリスクを正しく理解し、安全に取り扱えるようになっています。
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SDSの役割とは?安全データシートが果たす3つの目的


SDS(安全データシート)は、ただの「化学物質の説明書」ではありません。現場の安全性や環境への配慮にまで関わる重要な役割を担っています。ここでは、SDSが果たす主な3つの目的を整理しておきましょう。
安全データシートが果たす3つの目的
- 作業者の健康を守る
- 化学物質が環境に与える悪影響を防ぐ
- 化学物質への正しい理解
作業者の健康を守る
まず1つ目の目的は、化学物質を扱う作業者の健康を守ることです。
化学物質の中には、吸引や皮膚接触によって中毒や皮膚障害を引き起こすものもあります。SDSには、そうした有害性の有無や影響範囲、ばく露時の症状などが明記されており、作業前にしっかりとリスクを把握することで、健康被害を未然に防ぐことができます。
また、万が一事故が起こった場合の応急処置もSDSには記載されています。「目に入った場合は15分以上流水で洗い流す」「吸入した場合は速やかに新鮮な空気の場所へ移動する」など、初動の対応によって症状の悪化を防ぐことが可能になります。
このようにSDSは、日常の安全確保だけでなく、緊急時の命を守る行動につながる重要な情報源でもあるのです。
化学物質が環境に与える悪影響を防ぐ
2つ目の目的は、化学物質が環境に与える悪影響を防ぐことです。
ある成分が排水として流れ出した結果、水質汚染を引き起こしたり、保管状態が不適切だったことで土壌や大気への拡散につながるケースもあります。こうした事故は、気付かないうちに起きてしまうことも少なくありません。
SDSには、そうしたリスクを未然に防ぐために、適切な保管方法や廃棄手順などが詳しく記載されています。その情報に基づいて化学物質を管理すれば、作業者だけでなく周囲の自然環境や地域社会への影響も最小限に抑えることができます。
今日では多くの企業が、環境への配慮を企業責任の一環として重視しており、SDSを活用した適切な管理はその第一歩とも言えるでしょう。SDSは、単なる社内マニュアルではなく、持続可能な社会づくりのためのツールでもあるのです。
化学物質への正しい理解
3つ目の目的は、化学物質に関わるすべての関係者が、情報を共有し、安全な取り扱いを徹底できるようにすることです。SDSは、製造・販売・使用など、さまざまな立場の人たちに向けて共通の情報を伝えるためのツールでもあります。
販売業者が顧客にSDSを渡すことで、使用現場での取り扱いミスを防ぐことができますし、社内での保管担当者や廃棄処理を行う業者にとっても、適切な対応をとるための指針になります。
このように、SDSを通じて情報を共有することは、化学物質によるリスクを「個人」ではなく「組織全体」で管理するために欠かせない仕組みなのです。



水をかけてはいけない化学物質もあるなんて、知らないと本当に怖いですね。
SDSとMSDSの違いとは?正式名称や使われ方の変化を解説


SDSと似た言葉で「MSDS」という言葉もよく耳にするのではないしょうか?
「SDS」と「MSDS」は、どちらも化学物質の危険性や取り扱い方法を示すための安全データシートですが、現在の正式な呼称は「SDS」となっています。
MSDSは「Material Safety Data Sheet(製品安全データシート)」の略で、以前はこちらの名称で一般的に使われていました。しかし、国際的なGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に対応するため、平成23年度にJIS改正され、名称が「SDS(Safety Data Sheet)」に統一されました。
項目 | SDS | MSDS |
正式名称 | Safety Data Sheet | Material Safety Data Sheet |
現在の位置づけ | 正式な呼称(現行基準) | 過去の呼称(旧表記) |
基準との関係 | GHS(世界基準)に対応 | GHS以前の形式 |
つまり、「MSDS」はSDSの旧名称であり、基本的な内容は共通しているが、最新の表記・基準に則るのはSDSというわけです。現場では、古い資料や輸入品にMSDSと記載されている場合もありますが、内容が最新であるかどうか、GHSに対応しているかを確認したほうがよいでしょう。
混同しがちなSDSとMSDSの違いを理解しておくことで、安全管理や書類作成時のミスを防ぎ、より正確な対応ができるようになります。
MSDSが必要な場合ってまだある?古い書式の取り扱いに注意
MSDS(Material Safety Data Sheet)は、かつて日本でも正式に使われていた化学物質の安全情報シートの名称であることがわかりました。
では、MSDSという表記の資料が今でも必要になる場面はあるのでしょうか?
答えは、「場合によっては今でも目にすることがある」というのが実情です。たとえば、「過去に仕入れた製品に添付されていた資料がMSDS表記のままになっている場合」や「古いデータベースや社内文書が更新されていないケース」などが該当します。
MSDSは、内容としてSDSとほぼ同じ情報を含んでいることが多く、実務上は参考資料として活用できる場合もあります。しかし、緊急時の対応や監査時には、「旧形式のまま」として指摘される可能性や、安全性の観点から不十分と見なされる場合もあります。そのため、最新版のSDSに差し替えるか、メーカーに更新版の提供を依頼することが望ましいでしょう。
SDSはどこで入手できる?もし手元にない場合は?
化学物質を含む製品を扱ううえで、SDS(安全データシート)の入手は欠かせません。とはいえ、「書類が同梱されていなかった」「SDSが見当たらない」といったケースも現場ではよくあります。そんな時、どこから入手すればよいのか、対応方法を確認しておきましょう。


SDSは、製品の製造・流通の過程において、上流から下流へと段階的に提供される仕組みになっています。通常、化学品の製造・輸入業者から始まり、加工業者、卸売業者、小売業者といった流通経路を経て、最終的にユーザーの手元へと届けられます。これにより、製品を使用する現場で必要な安全情報が、適切に共有されることが前提となっているのです。
しかし実際の現場では、「購入時にSDSが同梱されていなかった」「納品書や製品だけが届き、安全に関する資料はなかった」「個人取引や小規模な商流では情報提供が省略されていた」など、SDSが入手できないケースも少なくありません。
そのような場合は、まず購入した店舗に問い合わせるのが基本です。多くの企業では、SDSをPDFファイルでメール送付してくれたり、郵送してくれたり対応してくれるでしょう。
販売店で対応できない場合は、メーカーに直接問い合わせることになります。公式ホームページからSDSをダウンロードできる場合もありますが、ログインや会員登録が必要なこともあり、手間がかかるケースもあります。そのため、確実かつ早く入手するには、問い合わせによる直接依頼が最も確実な方法と言えます。
法律ごとに異なるSDS交付義務の対象


- SDSに関係する3つの法律はどう違う?かんたんにわかりやすく整理!
- SDSが必要な化学物質はどれ?一覧表の探し方と種類の目安
SDSに関係する3つの法律はどう違う?かんたんにわかりやすく整理!


SDS(安全データシート)は、対象となる化学物質を含む製品を、他の事業者へ譲渡・提供する際に、譲渡者に対して提供が義務付けられているものです。これは法律に基づく明確なルールとして定められています。
しかしその根拠となる法令は、実は3つの異なる法律にまたがっており、「どの化学物質が対象なのか?」「提供の義務は?」を正しく理解するのは難しいものです。
そこで本記事では、対象物質に該当する場合に必ずSDSを交付しなければならないという原則を押さえつつ、各法令ごとの目的・範囲・違いを分かりやすく整理してご紹介します。
化学物質排出把握管理促進法(化管法)
通称「化管法」は、化学物質の環境への排出を未然に防ぐことを目的とした法律です。
製品に第一種または第二種指定化学物質が1%以上(特定物質の場合は0.1%以上)含まれている場合、SDSの提供が義務となります。2025年5月現在、対象となる化学物質は合計649物質にのぼります。
この法律では、事業者間で化学製品を譲渡・提供する際に、その性状や取扱いに関する情報(SDS)を事前に提供することが義務付けられており、ラベル表示については努力義務とされています。
労働安全衛生法(安衛法)
労働安全衛生法(安衛法)は、職場における労働者の安全と健康を守るために制定された法律です。
化学物質による中毒や爆発などの災害を防ぐため、安衛法では危険有害な物質を含む製品について、ラベル表示、SDS(安全データシート)の交付を事業者に義務付けています。
SDS交付義務の対象物質
- 労働安全衛生法施行令別表第3第1号で定める製造許可物質(7物質)
- 労働安全衛生法施行令別表第9で定める表示・通知義務対象物質
- 上記物質を含有する混合物
対象となるのは法令で指定された物質で、2025年時点では1,500種以上が交付義務の対象となっており、2026年4月1日からは、亜塩素酸ナトリウム・アセチレン等さらに779物質追加拡大される予定です。また、JISで危険有害性が認められる物質についても、SDS交付やラベル表示が努力義務とされています。
毒物及び劇物取締法(毒劇法)
毒劇法は、急性毒性のある化学物質を安全に管理するための法律です。
製造・輸入・販売・使用に関して、SDSの提供と容器表示が義務となります。毒物・劇物のリストは法令の別表に定められており、濃度によって対象になる・ならないの判断が分かれます。
少量販売や生活用品として使われる場合など、一定条件下ではSDSの交付が免除されるケースもあります。
※参考:厚生労働省「-GHS対応-化管法・安衛法・毒劇法におけるラベル表示・SDS提供制度」
SDSが必要な化学物質はどれ?一覧表の探し方と種類の目安


「この製品にはSDSが必要?」「どの化学物質が対象なのか一覧で確認したい」そんな疑問にお応えするために、SDS交付義務の対象物質を確認できる一覧表のリンク先を、法律ごとにまとめました。
製品に含まれる化学物質名がわかれば、以下のリンクから各法令に基づく対象物質かどうかを調べることができます。業務でSDSの作成・確認を行う際には、ぜひ活用してみてください。
法律名 | 対象化学物質一覧 |
化管法 | 経済産業省「化管法SDS制度 対象化学物質」 |
労働安全衛生法 | 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付等の義務対象物質一覧」 |
毒物及び劇物取締法 | 毒物及び劇物取締法「別表第1・第2」 毒物及び劇物指定令「第1条・第2条」 |
いずれの法律でも、対象物質であればSDSの提供は原則義務となります。迷ったときは、製品メーカー等に問い合わせるのも良いです。
総括:【MSDSはもう古い?】SDSとの違いやない場合の対応方法・法律別のポイントまで徹底解説!
この記事では、「SDSとMSDSの違い」をはじめ、SDSが必要となる場面や入手方法、対象物質の確認方法など、実務に直結する内容を整理しました。
現在では「SDS」が正式な呼称であり、化学物質を他社へ提供・譲渡する際には、その性状や取扱方法を正確に伝えるための情報提供義務が課せられています。化管法や労働安全衛生法などの法律により、SDS交付の対象が異なりますので、ご確認ください。
日々の業務の中で「なんとなく扱っている化学製品」にも、思わぬリスクが潜んでいることがあります。正しい知識とSDSの活用が、現場の安全と法令順守の第一歩です。
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