建設現場では、作業員の安全確保が最優先事項です。特に、新しい現場に入場する際には、作業環境やルールをしっかり理解しておかなければなりません。そこで実施されるのが「送り出し教育」です。
しかし、送り出し教育は「誰が、いつ行うのか?」「どんな資料が必要なのか?」「そもそも義務なのか?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、送り出し教育の概要、他の教育との違い、実施報告書の記入例まで詳しく解説します。これから送り出し教育を実施する方や、報告書の書き方で困っている方は、ぜひ参考にしてください。
記事のポイント
- 送り出し教育とは
- 送り出し教育は義務なのか
- 送り出し教育・新規入場者教育・雇入れ教育の違いは
- 送り出し教育実施報告書の書き方
この記事を書いた人

事務員たなか(@tanaka_kodozimu)
建設業事務員のたなか(@tanaka_kodozimu)です。
元SEで安全書類作成をメインに、経理・総務・人事・IT土方なんでもやっています。
子ども二人の限界主婦。事務作業や子育てが少しでも楽になる情報を発信しています。
目次
送り出し教育について

- 送り出し教育とは
- 送り出し教育は義務なのか?
- 新規入場者教育・雇い入れ教育との違い
送り出し教育とは
送り出し教育とは、下請け会社が自社の作業員に対して、新たに入場する現場の工事概要や安全ルール、作業手順などを事前に教育することを指します。 この教育は、作業員が現場に入る前に実施され、現場での安全作業の徹底を目的としています。
送り出し教育の期限は?いつやる?
送り出し教育は、作業員が新しい現場に入場する前に行います。具体的には、元請企業との工事着手打ち合わせ終了後、現場に入場する前日までに行うことが推奨されています。

実施報告書の作成もあるので、弊社では
現場入場1週間前くらいに実施しています。
誰がどこで行う?
送り出し教育は、基本的に作業員を送り出す会社の事業主や現場責任者(職長など)、安全衛生担当者が実施します。しかし、送り出し教育を行う体制が整っていない二次・三次協力会社の場合は、上位の協力会社が作業員を集めて実施することも可能です。
現場入場前に行う教育の為、自社の会議室などの落ち着いた環境で実施するのが一般的です。
送り出し教育の資料は?マニュアルはある?
送り出し教育を実施するためには、適切な資料を準備し、作業員に必要な情報を確実に伝えることが重要です。資料は大きく「元請企業から提供されるもの」と「自社で準備するもの」があります。
元請企業から提供される資料例 | 自社で準備する資料例 |
送り出し教育のマニュアル(テキスト) | 施工計画書 |
現場資料 | 作業手順書 |
送り出し教育テスト | 作業員の情報(資格・健康状態等) |
まず、元請企業から、作業場のルールや安全指針がまとめられた送り出し教育マニュアル(テキスト)が提供されるケースがあります。 現場ごとの特性に応じた内容が記載されており、作業員が現場で守るべきルールや安全管理のポイントを把握するために必要不可欠なものです。送り出し教育は、新規入場者教育の補助的な役割で実施されることもあり、それぞれの範囲が曖昧な場合は、送り出し教育でカバーすべき内容について元請企業に確認することをおすすめします。
一方、具体的な施工内容や作業の進め方に関する資料は、自社で準備します。 施工要領書や作業手順書を基に、自社の担当者が作業員に説明を行い、現場での作業方法やリスクを理解させることが求められます。
また、送り出し教育では、作業員の健康状態の把握や作業に応じた資格情報等の確認も重要です。 健康診断の確認や、持病の有無、作業に適した体調であるかを事前に確認し、必要に応じた配慮(適正配置)を行うことが求められます。



元請企業や発注者によって、送り出し教育のテストを実施するよう求められる場合もあります。作業場での基本的なルールを問われ、80点以上で合格となります。



教育内容は、現場によっても様々です。
適正配置については、こちらの記事で詳しく解説しています。
リンク
送り出し教育は義務なのか?


元請企業から依頼される「送り出し教育」そのものは、法律で義務付けられているものではありません。しかし、労働安全衛生法に基づく「作業内容変更時の教育」は事業主に義務付けられており、この教育が送り出し教育に該当すると考えられます。
(安全衛生教育)引用:労働安全衛生法 第59条1項2項
第五十九条 事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
2 前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する。
作業員が新しい現場に入場する際、作業内容や環境が変わるため、事業主は作業員に対して、安全衛生教育を実施する必要があります。
都道府県の労働基準監督署に確認しましたところ、「送り出し教育実施報告書」の作成や、元請企業への提出が法的に義務付けられているわけではないが、外部監査が入った際に教育を実施した証拠を示すため、記録を残しておくことが望ましいとのことでした。
元請企業が「送り出し教育実施報告書」の提出を求める理由は、この「作業内容変更時の教育」が適切に実施されているかを確認するためです。本来、作業員を送り出す事業主が適切な教育を実施すべきですが、元請企業にも労働安全衛生規則第642条の3に基づき、現場ルールの周知を徹底する責任があります。そのため、下請企業による教育の実施状況を確認し、安全管理を徹底する目的で報告書の提出が求められることがあります。
(周知のための資料の提供等)引用:労働安全衛生規則 第六642条の3項
第六百四十二条の三 建設業に属する事業を行う特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者
の作業が同一の場所において行われるときは、当該場所の状況(労働者に危険を生ずるおそれのある箇
所の状況を含む。以下この条において同じ。)、当該場所において行われる作業相互の関係等に関し関
係請負人がその労働者であつて当該場所で新たに作業に従事することとなつたものに対して周知を図る
ことに資するため、当該関係請負人に対し、当該周知を図るための場所の提供、当該周知を図るために
使用する資料の提供等の措置を講じなければならない。ただし、当該特定元方事業者が、自ら当該関係
請負人の労働者に当該場所の状況、作業相互の関係等を周知させるときは、この限りでない。



送り出し教育実施報告書の提出が不要な場合でも、
現場入場前は作業員に教育を実施しましょう!
安全衛生教育について詳しくはコチラでまとめています!
新規入場者教育・雇い入れ教育との違い


送り出し教育は、新規入場者教育や雇い入れ教育と実施主体や内容が異なります。
雇い入れ教育は、労働安全衛生法第59条に基づき、新たに雇用した労働者に対して事業主が実施する教育です。一方で、送り出し教育は、作業員を送り出す下請企業が、自社の作業員に対して行う安全衛生教育です。元請企業が実施する「新規入場者教育」に先立ち、作業員が現場で安全に作業できるよう準備することを目的としています。 具体的には、施工内容や作業手順、安全対策を指導するとともに、作業員の健康状態を把握する役割も担います。新規入場者教育と一部内容が重複することもありますが、両方を実施することで、現場参入当初の労働災害を防ぐ効果が期待されます。や業務上の危険・有害要因について教えることが目的であり、すべての新入社員に対して行われます。
新規入場者教育は、元請企業が、現場に新しく入場するすべての作業員に対して実施する教育です。現場ごとの安全ルールや作業環境、緊急時の対応などを伝え、現場での安全意識を高めることを目的としています。
一方で、送り出し教育は、作業員を送り出す下請企業が、自社の作業員に対して行う教育です。元請企業が実施する「新規入場者教育」に先立ち、作業員が現場で安全に作業できるよう準備することを目的としています。 具体的には、施工内容や作業手順、安全対策を指導するとともに、作業員の健康状態を把握する役割も担います。新規入場者教育と一部内容が重複することもありますが、両方を実施することで、現場参入当初の労働災害を防ぐ効果が期待されます。
項目 | 雇い入れ教育 | 送り出し教育 | 新規入場者教育 |
いつ | 雇用した時 | 現場に行く前 | 現場に入場した時 |
だれが | 自社 | 自社 | 元請企業 |
内容 | 基本的な安全衛生管理 | 施工内容 作業手順 資格確認 健康状態の把握 | 現場状況 現場ルール 健康状態の把握 |
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送り出し教育実施報告書について


- 送り出し教育実施報告書とは
- 送り出し教育実施報告書の書き方・記入例
送り出し教育実施報告書とは


送り出し教育実施報告書は、作業員に対して実施した送り出し教育の内容を記録し、元請企業に提出する書類です。報告書には、実施日時・場所、教育を受けた作業員の氏名、担当者名、教育内容などを記載します。作業員の氏名は、本人が自署するのが一般的です。
通常、元請企業から安全書類とともに所定のフォーマットが提供されるため、それに沿って作成します。全建統一様式には「送り出し教育実施報告書」という書類は存在しないので、「新規入場者等教育実施報告書」を用いて提出するケースもあります。
適切に記録を残すことで、教育の実施状況を明確にし、現場での安全管理を徹底することが重要です。
送り出し教育実施報告書の書き方・記入例


新規入場時等教育実施報告書の項目
- 元請確認欄
- 日付
- 事業所の名称・所長名
- 会社名・現場代理人
- 教育の種類
- 実施日時・実施場所
- 教育方法
- 教育内容
- 講師
- 受講者氏名
- 資料
元請確認欄
元請会社が書類を確認しサインする箇所なので、空欄で提出します。
日付
提出日を記入します。
事業所の名称・所長名
工事を実施する作業所(場所)または工事名称を記入します。
「〇〇事業所」「〇〇作業所」「〇〇工場改修工事」「〇〇新築工事」といった塩梅で記入しますが、元請会社から名称について指示される場合がほとんどですので、それに従います。
所長名は、元請企業の所長名、または現場代理人名を記入します。
会社名・現場代理人
自社の会社名と現場代理人の名前を記入します。
押印箇所がある場合は、忘れずに現場代理人の判子を押しましょう。
教育の種類


新規入場時・雇入れ時・送り出し時から選択する形式になっています。該当箇所に〇をつけるか、チェックを入れます。書式に従って対応してください。



送り出し教育の場合は、「送り出し時」に〇をつけます。
実施日時・実施場所
送り出し教育を実施した日時と場所を記入します。
教育方法
教育方法には、「講義」、「スライド」、「動画資料」、「映像資料」、「資料配布」など、どのような手段で教育を行ったか記載します。
教育内容


教育内容の欄には、実際に教育をおこなった内容を記載します。
教育内容の記載例は、以下の通りです。
教育内容の例
- 現場の概要・工程・施工体制
- 現場の安全・環境ルール
- 作業手順書の内容確認
- 健康状態の確認
- 資格が必要な業務の確認、有資格者の確認
- 危険・有害な仕事の有無
- 高齢者、年少者、疾病者等の適正配置確認
- 持込機械・器具の事前点検
- 保護具、安全装置等の点検
- 緊急連絡先の確認
講師
送り出し教育の講師名を記入します。
事業主や代理人(現場代理人や職長・安全衛生責任者等)が務めることがほとんどでしょう。
受講者氏名


送り出し教育を受けた作業員が自署します。
資料
使用した資料名を記入します。
元請会社から「送り出し教育マニュアル」や「現場資料」が提供された場合、それらを活用して教育を行います。
もし元請からの資料がない場合は、自社で準備した「施工計画書」や「作業手順書」を使用して教育を実施します。また、作業員の健康状態を確認するために、「作業員名簿」や「健康診断書」などを用いるケースもあります。



今回は新規入場時等教育実施報告書に沿って解説しましたが、送り出し教育も記載内容はほぼ同じですのでご安心ください。
元請企業によっては、署名欄の隣に確認テストの点数や血圧値を記入する欄が設けられる場合があります。
総括:【完全ガイド】送り出し教育は義務?送り出し教育実施報告書の書き方・記入例を徹底解説
送り出し教育は、作業員が新しい現場で安全に作業を行うために欠かせない重要なプロセスです。現場のルールや安全指針、施工内容を事前に教育することで、労働災害を防止し、作業員の安全意識を高める役割を果たします。
法律で送り出し教育自体が義務付けられているわけではありませんが、労働安全衛生法に基づく「作業内容変更時の教育」は事業主の責務となっております。この機会に、自社の送り出し教育を見直し、より充実した教育体制を整えてみてはいかがでしょうか。
送り出し教育は、現場の安全を守るための第一歩です。安全で効率的な現場運営を実現するために、ぜひ積極的に実施していきましょう!
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