建設キャリアアップシステム(CCUS)は、国土交通省が推進する制度で、建設業に従事する技能者の情報を一元管理し、適正な評価や処遇改善を目指す仕組みです。しかし、現場では「登録が面倒」「費用ばかりかかる」「結局、賃金には反映されないのでは?」といった不満の声も多く、「無駄ではないか?」と疑問視する意見が後を絶ちません。
しかし、十分な普及が認められないからといって「登録しなくても問題ない」と考えるのは危険です。制度が形骸化しているように見えても、国が推進している以上、今後の業界全体のルールとして定着する可能性が高いからです。
この記事では、「建設キャリアアップシステムは本当に無駄なのか?」という疑問に対し、現状の課題や国の狙い、そして今後の業界の変化を踏まえながら、CCUSの本質を深掘りしていきます。
記事のポイント
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)とは
- CCUSは無駄?無駄と言われる要因
- CCUSの本当の狙い
この記事を書いた人

事務員たなか(@tanaka_kodozimu)
建設業事務員のたなか(@tanaka_kodozimu)です。
元SEで安全書類作成をメインに、経理・総務・人事・IT土方なんでもやっています。
子ども二人の限界主婦。事務作業や子育てが少しでも楽になる情報を発信しています。
目次
建設キャリアアップシステムは無駄なのか

- 建設キャリアアップシステムとは?
- 建設キャリアアップシステムの普及率
- CCUSが「無駄」と言われる理由
- 建設キャリアアップシステムの本当の狙いとは?
建設キャリアアップシステムとは?

建設キャリアアップシステム(通称:CCUS)は、建設業に従事する技能者の資格、社会保険加入状況、現場ごとの就業履歴を一元管理し、適正な評価や処遇改善を目指す仕組みです。国土交通省が推進しており、技能者の能力を可視化することで、キャリアアップや賃金向上につながることが期待されています。
この制度は2019年4月に運用がスタートし、2020年1月から外国人技能実習生の登録が義務化されました。さらに、2023年には登録が原則義務化となり、公共工事を中心に導入が進められています。
しかし、実際の普及率は非常に低く、現場では「登録しても給料が上がらない」「手続きが煩雑」「カードリーダーが普及していない」などの不満が多く挙げられています。
建設キャリアアップシステムの普及率
建設キャリアアップシステム(CCUS)は、国が推進する制度ですが、その普及率はまだ十分とは言えません。2024年11月末時点での技能登録者数は156.5万人。これは、総務省の労働力調査(令和4年)による建設業技能者数302万人の約52%にあたります。つまり、技能者の約半数が登録しているものの、まだ残り半数は未登録の状態です。

また、登録者が増えているとはいえ、実際の現場でどれほど活用されているのかは別問題です。公共工事ではカードリーダーの設置が増えているようですが、民間工事では、現場で使用する機会はまだまだ少ないようです。毎日のように現場に行っても、就業履歴が蓄積されないのであれば、「使っていない」に等しい状況です。
このように、技能者の登録数自体は増えているものの、実際の運用面では活用が進んでおらず、形骸化している部分もあるのが現状です。
CCUSが「無駄」と言われる理由

建設キャリアアップシステム(CCUS)は、技能者の適正な評価や労務管理の効率化を目的とした制度ですが、現場では「無駄ではないか?」という声が多く聞かれます。その理由として、コスト負担の大きさや、現場での活用が進んでいない点、賃金への影響が不透明なこと、システムの使い勝手の悪さなどが挙げられます。
それぞれの問題点を詳しく見ていきます。
CCUSが「無駄」と言われる理由
- 費用負担が大きい
- 現場での活用が進んでいない
- システムの使い勝手が悪い
- 資格や技能評価が賃金に直結しない
費用負担が大きい

CCUSの導入には、技能者や事業者に対してさまざまな費用が発生します。技能者が建設キャリアアップカードを取得する際には登録料がかかり、事業者も資本金の規模に応じた登録料を負担する必要があります。さらに、CCUSを運用するための管理者IDの年間利用料や、元請け事業者が負担する現場利用料も発生します。
CCUS登録にかかる料金 | 対象 | 料金 | 費用発生の頻度 |
管理者ID利用料 | 全事業者 | 11,400円 | 1年毎 |
事業者登録料 | 全事業者 | 6,000円~2,400,000円 ※資本金によって異なる ※一人親方は0円 | 5年毎 |
技能者登録料 | 全員 | 簡略型2,500円 詳細型4,900円 | 約10年毎 |
現場利用料 | 元請企業 | 10円 | 1回タッチ毎 |

結構かかりますね…
これらのコストは事業者にとって負担となり、登録をためらう要因となっています。さらに、元請企業はカードリーダーの設置費用や、システム維持・管理にかかる追加コストもあり、導入のハードルは決して低くありません。
大手企業であればこうした費用を吸収できる場合もありますが、利益率の低い中小企業では、「登録のメリットが少ないのにコストばかりかかる」と不満の声が上がるのも無理はありません。
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現場での活用が進んでいない


CCUSの目的は、技能者の情報をデジタル管理し、現場での適正な評価や労務管理の効率化を図ることです。しかし、実際の現場では、その活用が進んでいないのが現状です。
多くの現場ではカードリーダーの導入が遅れており、技能者がキャリアアップカードを持っていても活用できないケースが多々あります。
特に民間工事では、技能者カードのコピーを提出して社会保険の加入状況などを確認することはあるものの、現場での就業履歴管理まではほとんど行われていません。
実際に、CCUSに登録して5年以上経過した弊社でも、技能者の就業履歴が20回に満たないという人も多く、せっかく登録しても活用されていないのが現実です。
システムの使い勝手が悪い


システムの問題点
- 登録作業が複雑で難解
- 視認性・操作性が悪い
- 問い合わせ窓口が少ない
CCUSの運用においては、システムの操作性や手続きの煩雑さが問題視されています。特に、技能者や事業者の登録手続きが複雑で、ITに慣れていない中小企業や一人親方にとっては大きな負担となっています。必要書類の準備や入力項目の多さに加え、登録作業がスムーズに進まないことが多く、「とにかく手間がかかる」という声が少なくありません。



不親切設計の為、申請時の不備率が高いことで有名です。
私も何度も何度も不備修正を行いました。
申請不備をくらって悶々しているときの記事はコチラ!
さらに、システムの操作性自体にも大きな課題があります。管理システムのユーザーインターフェースが分かりにくく、直感的に操作できない仕様になっており、特に慣れていない人にとっては使いづらいと感じることが多いです。スマートフォンアプリが主流の現代において、操作性が悪く視認性にも課題があるため、業務の効率化を妨げていると感じます。



以前は申請不備率が5割以上で、申請しても半分以上が不備となっていたようです。もはやシステムとして欠陥がありますね…
加えて、問い合わせ対応の遅さも問題視されています。CCUSには電話対応の窓口がなく、問い合わせは問い合わせフォーム経由となりますが、返信が数日から1週間後になることも珍しくなく、単純な確認や修正作業にも時間がかかることがあります。変更申請にも時間を要し、処理が進むまでに相当な時間を要するため、業務の遅れにつながるケースもあります。
資格や技能評価が賃金に直結しない


建設キャリアアップシステム(CCUS)は、技能者の資格や経験を見える化し、適正な評価を受けられる仕組みとして設計されています。国土交通省からはレベル別年収の目安が公表されており、技能者のキャリアアップが収入向上につながると示されています。しかし、実際の現場では、この評価が賃金に直結しているかどうかは不透明な部分が多いです。
まず、CCUSのレベルが上がったからといって、必ずしも個人の給与が上昇するわけではありません。賃金の決定は各企業の裁量に委ねられており、元請け企業や下請け企業ごとに給与の評価基準が異なるため、CCUSのレベル評価が賃金に反映される仕組みが整っていない場合が多くあります。そのため、「レベルが上がったのに給料が変わらない」「カードを持っていても待遇が改善しない」といった不満の声が技能者の間で広がっています。
また、レベル判定そのものの手間やコストの問題も指摘されています。すでに長年の経験を積み、必要な資格を取得している技能者であっても、改めてレベル判定を受けなければならず、そのための費用がかかるという点が課題となっています。
建設キャリアアップシステムの本当の狙いとは?


前述したように、建設キャリアアップシステムは「無駄ではないか?」と感じられる要因が多く、運営が大赤字となっている現状を考えると、「この制度は将来的に廃止されるのでは?」と思う人もいるかもしれません。
しかし、CCUSがなくなることはなく、むしろ登録要件は今後さらに厳しくなると考えられます。なぜなら、この制度の本当の狙いは、技能者の処遇改善だけでなく、社会保険料の徴収強化や業界再編の推進にあると予想されるからです。
建設業界は少子高齢化による労働人口の激減という大きな課題を抱えており、今後限られた労働力で業界を維持するためには、労働者を集中させる必要があるという考え方をする専門家もいます。そのため、中小企業をある程度淘汰し、ゼネコンなどの大手企業に労働力を集約するという狙いがあるのではないかとも考えられます。
これはCCUSに限らず、インボイス制度や雇用保険制度の改正(自己都合離職者の給付制限短縮)にも共通する流れです。インボイス制度では事務作業の負担を増やし、消費税の徴収を徹底することで中小企業はさらなる負担を強いられます。
また、雇用保険制度の改正によって労働者の転職をしやすくし、より積極的に転職を促す仕組みが整えられたことで、ただでさえ人手不足に悩む中小企業では、優秀な人材の流出が加速し、事業継続がますます困難になることが懸念されます。その結果、市場から撤退せざるを得ない企業も増え、労働者はより待遇の良い大企業へと流れ、労働力の集約が進むという構造が形成されつつあります。
偽装一人親方の問題への対策と、確実な社会保険料の徴収を目的とした政策も整えられつつあるようにも見えます。その一環として導入されたのがCCUSであり、下請ガイドラインではすでに「一人親方のあるべき姿」としてCCUSのレベル3相当が求められている状況です。
しかし、レベル3の能力評価を得るためには、一定の実務経験や資格の取得が必要であり、そのハードルは決して低くありません。そのため、今後CCUSの要件が業界標準として広まれば、基準を満たせない一人親方は仕事を請け負うことが難しくなり、結果として企業の社員として雇用される流れが強まる可能性があります。
建設業界として目指す一人親方の基本的な姿とは、請け負った工事に対し自らの技能と責任で完成させることができる現場作業に従事する個人事業主であるとした。その技能とは、相当程度の年数を上回る実務経験を有し、多種の立場を経験していることや、専門工事の技術のほか安全衛生等の様々な知識を習得し、職長クラス(建設キャリアアップシステムレベル3相当)の能力があること等が望まれ、また、責任とは、建設業法や社会保険関係法令、事業所得の納税等の各種法令を遵守すること、適正な工期及び請負金額での契約を締結していることや、請け負った工事の完遂がされること、他社からの信頼や経営力があること等が望まれる。社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン



マイナンバーカードのように、外堀を埋められ、
入らざるを得ない状況になるかもしれません。
早めの登録作業・能力評価をおすすめします。
リンク
総括:【建設業界の本音】キャリアアップシステムは無駄?無駄と感じる理由とそれでも無視できない理由
建設キャリアアップシステム(CCUS)は、「手続きが煩雑」「コストがかかる」「現場で活用されていない」など、無駄だと感じられる要因が多くあります。色々懸念事項はありますが、すでに義務化が進められており、今後はより厳格化されるのは確実です。CCUSが本当に無駄かどうかはさておき、制度に対応できなければ業界で生き残ること自体が難しくなる時代が来るかもしれません。
手続きは非常に大変ではありますが、早めに登録することをおすすめします。
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