労働現場での安全と健康を守るためには、適切な教育が欠かせません。中でも「安全衛生教育」は、労働者が危険を正しく理解し、安全意識を高める重要な役割を果たします。
しかし、安全衛生教育の目的や、他の教育との違いを正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。
本記事では、安全衛生教育と特別教育の違いを中心に、安全衛生教育の目的や種類、対象業種等について具体例を交えて詳しく解説します。これにより、各教育の役割を明確にし、労働環境の安全性向上に役立てていただければ幸いです。
記事のポイント
- 安全衛生教育とは
- 安全衛生教育の目的
- 安全衛生教育と特別教育の違い
- 安全衛生教育の種類を具体例を交えて解説
この記事を書いた人

事務員たなか(@tanaka_kodozimu)
建設業事務員のたなか(@tanaka_kodozimu)です。
元SEで安全書類作成をメインに、経理・総務・人事・IT土方なんでもやっています。
子ども二人の限界主婦。事務作業や子育てが少しでも楽になる情報を発信しています。
目次
安全衛生教育と特別教育の違いって何?

- 安全衛生教育とは
- 安全衛生教育の目的
- 安全衛生教育と特別教育の違い
- 安全衛生教育の種類
安全衛生教育とは
安全衛生教育とは、労働者が業務中に直面する危険や健康リスクを理解し、安全な作業方法を身につけるために行われる教育のことです。労働災害の防止と労働者の健康維持を目的とし、日本では労働安全衛生法に基づき、事業者に義務付けられているものと、努力義務とされるものがあります(労働安全衛生法第59条、第60条、第69条他)。
安全衛生教育の大きな特徴は、労働者自身の安全意識を高めるだけでなく、職場全体の安全文化の醸成にも寄与する点です。教育を受けた労働者が適切な作業方法を実践することで、事故や健康被害のリスクが低減され、企業全体の安全対策の向上につながります。
安全衛生教育の実施は、原則として所定労働時間内に行い、費用は事業者が負担することが求められます。これは、労働者が適切な教育を受ける機会を確保し、働きやすい環境を整えるための重要な制度です。
労働者の安全と健康を守るためには、事業者が適切な安全衛生教育を実施し、労働者が学んだ知識を実際の業務で活かすことが不可欠です。企業としての責任を果たすとともに、より安全で快適な職場づくりを目指すためにも、安全衛生教育は欠かせない取り組みといえるでしょう。
安全衛生教育の目的
安全衛生教育の一番の目的は、「労働災害の防止」です。事業場における事故や健康被害を未然に防ぎ、労働者が安全に働ける環境を整えることを目指します。現場の状況は常に変化しています。そのため、労働者の安全意識を継続的に高め、実際の作業環境に適した教育訓練を行うことが不可欠です。
安全衛生教育の意義
- 労働災害の防止
- 安全意識の向上
- 適切な保護具や機器の使用方法の習得
- 職場の衛生管理の向上
- 労働者の健康維持と職業病の予防
- 緊急時の対応力向上
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安全衛生教育と特別教育の違い

安全衛生教育 とは、労働者が安全に業務を遂行するために必要な知識や技術を学ぶための教育の総称です。安全衛生教育は、大きく7つの種類に分かれており、その中の一つが「特別教育」です。

特別教育は、特定の危険または有害な業務に従事する労働者 に対して行われる専門的な教育です。アーク溶接やフルハーネスを使用する高所作業など、特定のリスクを伴う業務では、安全確保のために特別な知識と技術の習得が必要とされるため、事業者には特別教育を実施する義務があります。
労働災害を防ぎ、安全な職場環境を維持するためには、これらを適切に実施し、現場のリスクを最小限に抑えることが重要です。
【具体例あり】安全衛生教育の種類

安全衛生教育は、労働者が安全に業務を遂行できるようにするために実施される重要な教育 です。主に7種類の教育があり、それぞれの目的に応じて適切に実施することが求められます。
特に「雇い入れ時の教育」「作業内容変更時の教育」「特別教育」「職長教育」の4つは、労働安全衛生法に基づき事業者に義務付けられた教育であり、確実に実施する必要があります。安全な職場環境を維持するためにも、今一度教育内容を確認し、労働者の安全確保に努めましょう。
種類 | 労働安全衛生法 | 実施義務 |
1.雇入れ時教育 | 第59条第1項 | 義務 |
2.作業内容変更時の教育 | 第59条第2項 | 義務 |
3.特別の危険有害業務従事者への教育(特別教育) | 第59条第3項 | 義務 |
4.職長等への教育 | 第60条 | 義務 |
5.安全管理者等に対する教育 | 第19条の2 | 努力義務 |
6.危険又は有害作業従事者教育 | 第60条の2 | 努力義務 |
7.健康教育 | 第69条 | 努力義務 |

たくさんあるので、ひとつずつ見ていきましょう!
雇入れ時教育と作業内容変更時の教育


雇入れ時教育とは、新たに雇用された労働者に対して、安全に業務を遂行するための基本的な知識や技術を教育するものです。労働安全衛生法第59条第1項に基づき、事業者は労働者を雇い入れた際に、職場の安全衛生管理や作業環境に関する教育を実施する義務があります。
また、作業内容変更時の教育も同様に、労働安全衛生法第59条第2項に基づき義務付けられています。労働者の作業内容が変更された場合には、その業務に必要な安全衛生知識を教育する必要があります。新しい作業に適応するためのリスク管理や、安全な作業手順を理解させることが目的です。作業内容が変わることで、新たな危険要因が発生する可能性があるため、適切な教育を行わなければなりません。
(安全衛生教育)引用:労働安全衛生法 第59条1項2項
第五十九条 事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
2 前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する。
2024年4月1日の法令改正により、これまで特定の業種に義務付けられていた雇入れ時教育が、雇用区分や国籍に関わらず、新たに雇用されたすべての労働者が対象となり、全ての事業場で義務化されました。
雇入れ時および作業内容変更時の安全衛生教育は、労働安全衛生規則第35条に基づき、労働者が従事する業務に応じた内容で実施されます。一部の業種は①~④の項目は省略可能です。
労働安全衛生規則35条に基づく教育内容
- 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること。
- 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること。
- 作業手順に関すること。
- 作業開始時の点検に関すること。
- 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること。
- 整理、整頓及び清潔の保持に関すること。
- 事故時等における応急措置及び退避に関すること。
- 前各号に掲げるものの他、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項。
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特別の危険有害業務従事者への教育(特別教育)
特別の危険有害業務従事者への教育(=特別教育)は、一定の危険または有害な業務に従事する労働者に対して、安全・衛生に関する特別な教育を実施する制度です。労働安全衛生法第59条第3項 に基づき、事業者は対象となる業務に労働者を就かせる前に、厚生労働省令で定められた特別教育を行う義務があります。
(安全衛生教育)引用:労働安全衛生法 第59条3項
第五十九条
3 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。
また、特に高度な危険性を伴う業務については、免許や技能講習の修了が必要となり、資格を持たない労働者はその業務に従事できない (労働安全衛生法第61条)と定められています。
職長等への教育
職長等への教育とは、作業中の労働者を直接指導・監督する立場にある職長などに対し、安全衛生管理の知識を習得させるための教育です。労働安全衛生法第60条に基づき、事業者は対象業種に該当する事業場において、新たに職長となる者に対し、安全または衛生のための教育を実施する義務があります。
(安全衛生教育)引用:労働安全衛生法 第59条3項
第六十条 事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなつた職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
職長教育が必要な業種には、建設業、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業、および一部の製造業が含まれます。従来、一部の製造業とは、食料品製造業(うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く)、たばこ製造業、繊維工業(紡績業および染色整理業を除く)、衣服・その他の繊維製品製造業、紙加工品製造業(セロファン製造業を除く)、新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業以外の業種とされていました。
しかし、2023年4月1日の改正により、食料品製造業(すべて)、新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業も新たに対象となり、適用範囲が拡大されました。
職長は、現場の安全管理を徹底し、作業者への適切な指導を行う重要な役割を担っています。職場の安全文化を醸成するためにも、事業者は適切な職長教育を実施し、現場の安全性向上に努める必要があります。
職長教育の内容は、労働安全衛生規則第40条にて決められています。詳しくはコチラの記事を参照ください。
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安全管理者等に対する教育
安全管理者等に対する教育は、事業場の安全衛生水準の向上を目的とし、安全管理者や衛生管理者、安全衛生推進者、作業主任者など、安全衛生業務に従事する者を対象に実施されます。労働安全衛生法第19条の2に基づき、事業者にはこの教育を実施する努力義務があります。
(安全管理者等に対する教育等)引用:労働安全衛生法 第19条の2
第十九条の二 事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者その他労働災害の防止のための業務に従事する者に対し、これらの者が従事する業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を行い、又はこれらを受ける機会を与えるように努めなければならない。
教育の実施は、初めて該当業務に従事する際の「初任時教育」、一定期間ごとに行う「定期教育」、機械設備の大幅な変更時に行う「随時教育」の3種類に分かれます。内容は、労働災害の防止策、安全管理手法、最新の安全衛生情報などが含まれ、該当業務に適した講師による指導が求められます。
教育は事業所内で実施することも可能ですが、適切な講師がいない場合は、安全衛生団体など外部機関への委託が推奨されます。事業者は、継続的な教育を通じて安全衛生管理者の能力向上を図り、職場の安全文化を醸成することが求められます。
職長能力向上教育について詳しくはコチラの記事を参照ください。
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危険又は有害作業従事者教育
労働安全衛生法第60条の2に基づき、事業者は危険または有害な業務に現在従事する労働者に対し、安全衛生水準の向上を目的とした教育を行うよう努めることが求められています。この教育は、労働災害の防止や安全意識の向上を図るために不可欠なものです。
(安全衛生教育)引用:労働安全衛生法 第60条の2
第六十条の二 事業者は、前二条に定めるもののほか、その事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、危険又は有害な業務に現に就いている者に対し、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行うように努めなければならない。
対象となる業務には、車両系建設機械(整地等)運転、フォークリフト運転、玉掛け業務などが含まれ、これらの作業は常に危険を伴います。一度資格を取得すれば更新の必要はありませんが、法令の改正、機械の性能向上、作業環境の変化に適応するためには、定期的な再教育が重要です。
事業者は、労働者が最新の安全対策を理解し、適切に実践できるよう、継続的な教育の機会を提供することが求められます。労働災害を防ぎ、安全と健康を守るためにも、危険を再認識し、最新の知識を学び続けることが重要です。



②で説明した特別教育を受けさせる義務と似ていますが、こちらは現在すでに従事しているものに対し安全衛生の水準の向上を図るため再教育を受けさせるということです。
健康教育


労働安全衛生法第69条に基づき、事業者は労働者の健康保持・増進を目的とした健康教育を継続的かつ計画的に実施することが努力義務となっています。また、労働者も事業者が講じる健康教育の機会を活用し、自身の健康管理に努めることとされています。
第六十九条 事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。引用:労働安全衛生法 第69条
2 労働者は、前項の事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとする。
健康教育は、事業場の実情に応じて適切に実施され、主に健康測定、運動指導、保健指導、メンタルヘルスケア、栄養指導 などが含まれます。これらの取り組みにより、生活習慣病の予防やストレス管理を促進し、労働者の健康維持と生産性向上につながります。
事業者は、従業員の健康を守るために、適切な健康教育を実施し、継続的な支援を行うことが重要です。



従業員の健康を管理することは「適正配置」にも繋がります。
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総括:【事業者の義務】安全衛生教育と特別教育の違いとは?具体例を交えて分かりやすく解説!
安全衛生教育は、労働者が業務中の危険や健康リスクを理解し、安全な作業方法を身につけるために実施される重要な教育です。労働災害の防止や健康維持を目的としており、労働安全衛生法に基づき、事業者にはその実施が義務付けられているものと、努力義務とされるものがあります。
安全衛生教育の中には、特別教育も含まれており、これは特定の危険・有害業務に従事する労働者に対し、より専門的な知識と技能を習得させるために実施されるものです。
業種や業務内容に応じた適切な安全衛生教育を実施することで、労働者の安全意識が向上し、労働災害のリスクが低減されます。事業者は、労働環境の変化や法改正に対応しながら、継続的な教育を提供することが求められます。また、労働者自身も教育を積極的に活用し、安全な職場づくりに貢献する姿勢が重要です。安全衛生教育は、企業の責任であると同時に、労働者の安全と健康を守るための不可欠な取り組みといえます。
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