建設業に携わる方なら、「施工体制台帳」という言葉を毎日のように耳にするのではないでしょうか。発注者や元請から指示されるままに作成しているものの、「これ、本当に必要なの?」と疑問に思ったことはありませんか?
実は、すべての工事で施工体制台帳が必須というわけではありません。 中には「不要では?」と思うようなケースもあるのです。とはいえ、単に「不要」と判断するのはリスクが伴います。法律上の要件を正しく理解しないまま「これは作らなくていい」と判断してしまうと、思わぬトラブルにつながる可能性も。では、どのような場合に施工体制台帳が不要となるのでしょうか?
この記事では、施工体制台帳の作成が不要となるケースとその根拠について、わかりやすく解説します。
記事のポイント
- 施工体制台帳とは
- 施工体制台帳が不要なのはどんなときか
- 施工体制台帳は誰が作成する?
- 施工体制台帳作成義務違反のリスク
- 施工体制台帳と一緒に必要な書類
この記事を書いた人

事務員たなか(@tanaka_kodozimu)
建設業事務員のたなか(@tanaka_kodozimu)です。
元SEで安全書類作成をメインに、経理・総務・人事・IT土方なんでもやっています。
子ども二人の限界主婦。事務作業や子育てが少しでも楽になる情報を発信しています。
目次
施工体制台帳について

- 施工体制台帳とは?
- 施工体制台帳の作成義務と適用範囲 ~不要のケースはどんな時~
- 施工体制台帳の作成は元請業者のみが対象か
- 施工体制台帳の作成義務違反は営業停止処分のリスク!適正な管理が不可欠
- 施工体制台帳の添付書類と作成時の注意点
施工体制台帳とは?

施工体制台帳は、工事に関わるすべての業者の名称、施工範囲、工期、技術者の氏名などを記載する書類で、元請業者が現場の施工体制を適切に管理するために作成するものです。
これにより、施工品質の確保、施工上のトラブル防止、不適格業者の排除、重層下請けの抑制などを目的としています。また、施工体系図と併せて作成され、工事関係者全員が施工体制を把握しやすくする役割も担っています。
施工体制台帳の作成義務と適用範囲 ~不要のケースはどんな時~
施工体制図、及び施工体制台帳は特定の条件がそろった場合に作成する義務が生じます。
公共工事の場合、発注者から直接建設工事を請け負った元請企業が、下請負契約を締結した際に作成します。
民間工事の場合、発注者から直接請け負った元請企業(特定建設業者)が、工事を施工するために締結した下請契約の請負代⾦の総額が4,500万円(建築⼀式⼯事︓7,000万円)以上になるときに作成することが義務づけられています。

建設業法施行令の一部を改正する政令(令和4年政令第353号)により、施工体制台帳及び施工体系図の作成を義務付ける下請代金の額が4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)に引き上げられました。令和5年1月1日から施行されていますので、注意してください。

民間工事で下請代金の額が高額でない場合は、不要ということですね。
(施工体制台帳及び施工体系図の作成等)引用:建設業法 第二十四条の八
第二十四条の八 特定建設業者は、発注者から直接建設工事を請け負つた場合において、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が二以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金額以上になるときは、建設工事の適正な施工を確保するため、国土交通省令で定めるところにより、当該建設工事について、下請負人の商号又は名称、当該下請負人に係る建設工事の内容及び工期その他の国土交通省令で定める事項を記載した施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え置かなければならない。
2 前項の建設工事の下請負人は、その請け負つた建設工事を他の建設業を営む者に請け負わせたときは、国土交通省令で定めるところにより、同項の特定建設業者に対して、当該他の建設業を営む者の商号又は名称、当該者の請け負つた建設工事の内容及び工期その他の国土交通省令で定める事項を通知しなければならない。
3 第一項の特定建設業者は、同項の発注者から請求があつたときは、同項の規定により備え置かれた施工体制台帳を、その発注者の閲覧に供しなければならない。
4 第一項の特定建設業者は、国土交通省令で定めるところにより、当該建設工事における各下請負人の施工の分担関係を表示した施工体系図を作成し、これを当該工事現場の見やすい場所に掲げなければならない。
(施工体制台帳の作成及び提出等)引用:公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律 第十五条
第十五条 公共工事についての建設業法第二十四条の八第一項、第二項及び第四項の規定の適用については、これらの規定中「特定建設業者」とあるのは「建設業者」と、同条第一項中「締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が二以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金額以上になる」とあるのは「下請契約を締結した」と、同条第四項中「見やすい場所」とあるのは「工事関係者が見やすい場所及び公衆が見やすい場所」とする。
施工体制台帳の作成は元請業者のみが対象か
施工体制台帳の作成義務は元請業者にのみ課せられており、下請業者にはその義務はありません。施工体制台帳は、工事全体の施工体制を明確にし、適切な管理を行うための書類であり、一定の下請代金額を超える公共工事において作成が求められます。
一方、下請業者がさらに下請業者と契約を結ぶ場合には、再下請負通知書の作成が求められており、これを一次下請企業がとりまとめて元請業者に提出しなければなりません。再下請負通知書の提出は、元請業者が工事に関わる全ての下請業者を把握し、適切な管理を行うために必要な手続きです。
施工体制台帳は元請業者が作成し、下請業者は再下請負通知書を提出することで、工事全体の適正な施工管理が確保される仕組みとなっています。
施工体制台帳の作成義務違反は営業停止処分のリスク!適正な管理が不可欠
施工体制台帳の作成義務に違反した場合、建設業法違反となり、7日以上の営業停止処分を受ける可能性があります。施工体制台帳または施工体系図を作成しなかった場合、または虚偽の記載を行った場合には、監督行政機関から厳しく指導されます。
施工体制台帳の作成は、施工管理の適正化や違法な重層下請負の防止を目的としており、元請業者に作成義務が課せられています。義務を怠ることは、単なる書類不備ではなく、法的な罰則の対象となるため、適切な管理が求められます。
施工体制台帳の添付書類と作成時の注意点


施工体制台帳の作成時には、適切な添付書類を準備し、内容に不備がないよう注意することが重要です。添付書類には、発注者との契約書の写し、下請負人との契約書類、監理技術者証の写し、技術検定合格証明の写し、健康保険証などの雇用関係を証明する書類などが含まれます。
施工体制台帳提出の際に必要な添付書類
- 発注者との契約書の写し
- 下請負人が注文者との間で締結した契約書の写し
→注文・請書及び基本契約書又は基本契約約款等の写し - 配置技術者が資格を有することを証する書類
→監理技術者の場合、監理技術者証の写しに限る - 監理技術者補佐を置いた場合は、監理技術者補佐資格を有することを証する書面
- 専門技術者等を置いた場合は資格を証明できるものの写し
→国家資格等の技術検定合格証明等の写し - 配置技術者等の雇用関係を証明できるものの写し
→健康保険証等の写し
※参考:建設業法施行規則 第十四条の二
特に、注文書と請書を添付する際は、施工体制台帳にも契約日や工期を記載する項目があるため、書類間で情報の整合性が取れているか必ず確認する必要があります。
また、監理技術者が専任を要する場合は、監理技術者証の写しが必須である点にも注意が必要です。施工体制台帳は法令に基づいた書類であり、作成・保管が適切でなければ業務停止処分などのリスクが発生することもあります。作成時にはガイドラインを確認し、必要な書類を漏れなく準備し、正確に記載することが求められます。
総括:【重要】施工体制台帳の作成義務と不要なケースを解説!違反すると営業停止になる可能性も?
施工体制台帳は、すべての公共工事で作成が義務付けられており、民間工事では一定の金額以上の場合に必要となります。民間工事の場合、下請契約の総額が 4,500万円以上(建築一式工事は7,000万円以上) の場合には施工体制台帳の作成が必要です。
一方で、これ以下の金額の民間工事や、一部の業種においては施工体制台帳は不要となります。また、施工体制台帳の作成義務は元請業者にのみ課されており、下請業者には義務はありません。下請け企業は、再下請負契約を結ぶ場合には再下請負通知書の提出が求められるので注意しましょう。
施工体制台帳が不要なケースを把握しておくことで、不要な書類作成の手間を省きつつ、必要な場面では適切に対応することが可能となります。施工体制台帳の適用範囲を正しく理解し、適切に対応することで、法令遵守を徹底しながら業務を円滑に進めることができます。
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